「お疲れ様」は英語でどう言う?―日本独自の心づかいを訳すむずかしさ

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日本語における「お疲れ様です」や「お疲れ様でした」は、日常的に使われる非常に便利なあいさつ表現です。

職場での仕事終わり、同僚とのすれ違い、会議後のひと言など、さまざまな場面で耳にします。しかし、いざこれを英語に訳そうとすると、ピッタリ当てはまる表現が見つからず、戸惑う人も多いのではないでしょうか。

この記事では、「お疲れ様」の意味やニュアンスを分析しながら、それに相当する英語表現を状況別にご紹介します。なぜ「お疲れ様」が英訳しにくいのか、日本語特有の背景にも触れながら、丁寧に解説していきます。

目次

なぜ「お疲れ様」は英訳しにくいのか?

まず、「お疲れ様」は単なる疲労をねぎらう言葉ではありません。

「疲れているあなた」を直接指しているわけではなく、「あなたの努力・行動・時間に対する敬意や感謝」をやんわりと伝える表現です。とくにビジネスシーンでは、感情や上下関係を和らげるクッション言葉のような役割も果たしています。

英語にはこのような間接的かつ儀礼的なねぎらいの挨拶がほとんど存在しないため、「お疲れ様」をそのまま直訳するのは難しいのです。

「お疲れ様」に近い英語表現(状況別)

1. ビジネスシーン(仕事終わり・会議後など)

  • Good job.(よくやったね)
  • Well done.(お見事)
  • Thanks for your hard work.(お疲れさまでした)
  • I appreciate your effort.(ご尽力に感謝します)

これらの表現は「お疲れ様」の一部の意味に対応しますが、やや直接的で評価的なニュアンスが強くなります。日本語の「お疲れ様」がもつ中立的で礼儀正しい空気をそのまま再現するのは難しいのです。

なお、「Thank you for your work today.(今日はお仕事ありがとうございました)」のように少し丁寧に言うことで、日本語のやわらかい敬意に近づけることができます。

2. 同僚との軽いやりとり(すれ違いざまの一言など)

  • Hey.(軽いあいさつとして)
  • See you.(じゃあまた)
  • Take care.(気をつけてね)
  • Hang in there.(がんばってね)

こうした表現は、「お疲れ様です」がただの社交辞令として使われる場面に当てはめると自然です。たとえば英語圏では、職場ですれ違った同僚にいちいち「ねぎらいの言葉」をかける文化がないため、HiSee you later のようなあいさつで十分とされています。

3. 飲み会やイベントのあと

  • Thanks for coming.(来てくれてありがとう)
  • It was a great night.(楽しい夜だったね)
  • Hope you had a good time.(楽しんでもらえたならよかった)

「お疲れ様〜」と声をかけたくなる場面でも、英語では感謝や感想を率直に伝えるのが一般的です。

直訳ではないけれど、気持ちを伝える工夫が大切

「お疲れ様」という言葉を英語にするには、その場に合った気持ちを“翻訳”することがポイントです。つまり、言葉を置き換えるというより、「なぜその言葉を言いたくなったのか?」を考えることで、自然な英語表現が見えてきます。

たとえば:

  • 相手に敬意を表したい → “I really appreciate what you did.”
  • 雰囲気よく別れたい → “Take it easy.” / “Have a good one.”
  • 労をねぎらいたい → “Thanks for all your hard work.”

直訳がないからといって困るのではなく、気持ちを伝える英語表現の幅が広いと考えると、英語らしいコミュニケーションができるようになります。

英語で「お疲れ様」を表現するときの注意点

「お疲れ様」と表現しようとする時、日本語をそのまま英語の置き換えた時、不自然かつ悪い誤解を与えかねないやりがちな失敗例があります。その失敗例を2つ紹介します。

注意1 “You must be tired.”

“You must be tired.” は要注意。直訳的で、相手が疲れていることを断定的に言ってしまうため、場合によっては失礼に感じられます。

英語ツウ

よく言われるのが、日本人は、相手が疲れているかどうか不明な状況で突然「お疲れ様」という言葉を使うよね。この言葉自体、日本人同士なら相手への気遣いとポジティブな印象を与えることが多いけどね・・・

もし、ネイディブに対して突然に“You must be tired.” と言うと、次のような良くない印象を与えることがあります。

  • 「なぜあなたが私の状態を勝手に決めつけるの?」
  • 「疲れてるように見える?私、そんなに疲れた顔してる?」

つまり、相手の気分や様子を勝手に推測して断定するように聞こえる場合があるのです。
とくにビジネスやフォーマルな場面では注意が必要です。

英語ツウ

ただ、“You must be tired.”も文脈が合えば自然な共感の言葉となるよ。

はるか

どういうこと?

たとえば:

  • 相手が長時間移動してきたあと
  • 残業明けで疲れた様子がはっきりしているとき
  • 子どもを寝かしつけたあとなど

このような場合は共感やいたわりの言葉として自然に伝わります。

“Wow, you’ve been working all day. You must be tired!”
「ずっと働いてたんだね。きっと疲れたでしょ!」

これは観察した事実に基づく優しい共感としてポジティブに受け取られます。

注意2 “Thank you for your effort.”

“Thank you for your effort.” も不自然になることがあります。文法的には正しいですが、英語ネイティブはあまり使いません。

はるか

わたしも英会話教室でこの表現を使ったことがあったわ。
ネイティブは「Thank you for your effort.」をどう感じるかしら?

英語ツウ

「頑張ってくれたけど、成果が伴わなかった」
つまり、
「努力は認めるけど、結果はちょっと残念だったね」
「とにかく何かやってはくれたよね」
という、評価保留型のねぎらいに聞こえる場合があるかな。

はるか

少なくとも、感謝の気持ちは伝わらないわね・・・

英語ツウ

次のような例文が考えられるよ。

Manager: Unfortunately, we didn’t win the contract this time.
Employee: I see. That’s disappointing, but we gave it our best.
Manager: Yes. Thank you for your effort.

【訳】
上司: 残念ながら、今回の契約は取れませんでした。
部下: そうですか…。残念ですが、最善は尽くしましたね。
上司: そうですね。努力してくれてありがとう。

ニュアンス:
成果が出なかったときの「一応ありがとう」。やや評価保留的な響きがあります。

「お疲れ様」以外に英語にしにくい言葉とその理由

「お疲れ様」以外にも、日本語には英語にしにくい言葉が多く存在します。その多くは、日本語特有の文化・人間関係・曖昧さに根ざした表現です。以下に代表的なものと、英語にしにくい理由をいくつかご紹介します。

よろしくお願いします

はるか

これはよく聞くわね。ネイティブは何を頼まれるのか不思議に思うみたいね。

英訳が難しい理由

  • 「お願い」「あいさつ」「協力依頼」「今後の関係性の確認」など、意味が多層的で非常に抽象的。
  • 明確な動作がないため、英語に訳すときに「何をお願いしているのか」が曖昧になる。

場面別の訳し方例

  • ビジネスの締め → I look forward to working with you.
  • 頼みごと → Thank you in advance.
  • あいさつ → Best regards.

お先に失礼します

英語ツウ

早く帰ることに対する罪悪感は、日本独特のものなのだろうね。

英訳が難しい理由

  • 相手より先に退勤・退出することへの遠慮・配慮が含まれている。
  • 英語圏ではそもそも「先に帰る=失礼」という文化がない。

訳し方の例

  • I’m heading out now. See you tomorrow!(自然な日常表現)
  • I’ll be leaving for the day. Have a good evening!

仕方ない(しょうがない)

英訳が難しい理由

  • 「どうにもならない」という諦めや受容の気持ちを含むが、英語には共通の価値観がない
  • 英語では「何かできる方法を探す」という文化が強く、諦めの表現が少ない。

近い表現

  • It can’t be helped.(最も直訳的だが、やや古風)
  • That’s the way it is.(状況の受け入れ)
  • Oh well.(軽く受け流す表現)
はるか

でも、「It can’t be helped.」が「仕方ない」という意味に近くないの?

英語ツウ

ネイティブも意味は理解するけど、少し突き放した印象を与えることがあるんだ。

とくに次のように聞こえるリスクがあるよ。
「あきらめろ」
「まあ、そういうもんだ」
「文句言っても無駄だよ」

A: I was really hoping for a promotion this year.
B: Well… it can’t be helped.
「そりゃ残念だったね(でもどうしようもない)」という、やや突き放し気味な空気になります。

はるか

日本語の相手への共感を示す「仕方ない」と少しニュアンスが違ってしまうのね。

英語ツウ

日本語の「仕方ない」も状況によって次のように使い分けるといいよ。

日本語の「仕方がない」英語表現ニュアンス・特徴
しょうがないよね(共感)That’s just the way it is.よくある自然な共感
どうしようもないねThere’s nothing we can do.客観的な状況説明
しょうがないさ(あきらめ)Oh well. / What can you do?軽めのあきらめ
仕方なかったんだIt was unavoidable.丁寧でフォーマル寄り
運命だったと思うIt was meant to be.運命論的、慰めにも使える

空気を読む

英訳が難しい理由

  • 「場の雰囲気を察して、自分の行動を調整する」という集団主義的な感覚が背景にある。
  • 英語圏では、個人主義が強いため、「察すること」よりも「はっきり言うこと」が重視される

訳すなら

  • Read the room.(近年使われるようになった言い回し)
  • Be sensitive to the situation.(丁寧に言うとこう)
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もったいない

英訳が難しい理由

  • 単に「無駄にする」だけでなく、「大切なものを粗末に扱うことへの道徳的感覚」が含まれている。
  • 英語には同様の道徳的・宗教的ニュアンスがない。

訳すなら

  • What a waste!(感情的な驚き)
  • It’s too good to waste.(もったいないという気持ちに近い)

懐かしい

英訳が難しい理由

  • ただ「昔を思い出す」ではなく、感情がこもった“温かい過去への想い”が含まれている。
  • 英語には単語ひとつでその感情を表す言葉がない。

近い表現:

  • This brings back memories.
  • How nostalgic!(やや文学的)
  • I miss those days.(感情が強くこもる)
はるか

これ以外にもたくさんありそうね。
でも、なぜ日本語には「英訳しにくい言葉」が多いのかしら?

英語ツウ

次のようなことが挙げられると思うよ。

  1. 文化的背景の違い
     → 日本語は空気・関係性・立場を前提にした言語。一方、英語は明示的で論理的な表現を重視。
  2. 敬語や曖昧表現の多さ
     → 日本語では直接的に言わず、やんわり・ぼかすことが美徳とされる場面が多い。
  3. 多義的な言葉が多い
     → 1つの表現に複数の意味や感情を含むため、場面や文脈によって訳が変わる

まとめ:「お疲れ様」は“文化”を伝える言葉

「お疲れ様」という言葉は、日本語独特の気配り・敬意・場の空気感を含んだ挨拶です。英語にぴったり対応する単語がないのは当然とも言えます。

「お疲れ様」だけでなく、「よろしくお願いします」「仕方ない」「空気を読む」など、日本語にはそのまま英語に訳すのが難しい表現が数多く存在します。これは単なる言葉の違いではなく、文化・価値観・人間関係の捉え方の違いに根ざしています。

英語に訳す際は、「どんな気持ちを込めてその言葉を言っているのか?」を考えながら、場面に応じた自然な英語表現を選ぶことが大切です。翻訳というより「気持ちの再表現」と考えると、英語でもしっかり伝わる言葉を選べるようになります。

しかし、その場の気持ちを的確に伝える英語表現を身につければ、「お疲れ様」を超えた思いやりを伝えることも可能です。文化の違いを理解しながら、状況に応じて英語表現を使い分けていきましょう。

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