ルネサンス期のイギリスに登場したウィリアム・シェイクスピアは、「世界文学の巨匠」としてだけでなく、人間中心のルネサンス精神を最も深く体現した劇作家として知られています。
彼の作品には、神の秩序や運命に翻弄されながらも、理性と情熱をもって生きる人間の姿が描かれ、宗教的束縛から解放された“人間の再発見”というルネサンスの理念が色濃く反映されています。
シェイクスピアの登場は、14〜15世紀にイタリアで始まったルネサンスの思想が、北ヨーロッパを経てイギリスへと波及した最終段階を示しています。
中世的な神中心の世界観から、人間の感情・理性・個性を肯定する新しい人間観への転換が進み、その集大成として、文学・演劇が社会の精神を映す鏡となりました。
『ハムレット』『マクベス』『ロミオとジュリエット』『リア王』などの作品は、時代や身分を超えて普遍的な人間の葛藤を描き出し、ルネサンス的人文主義と近代的個人主義の橋渡しとして、のちのヨーロッパ思想に深い影響を与えました。
本記事では、
- シェイクスピアの生涯と作品の概要
- ルネサンス文化との関係
- 彼の作品に表れる人文主義的思想
- その後の文学・思想への影響
を体系的に整理し、世界史の文脈でシェイクスピアを理解するための解説としてまとめます。
第1章:ルネサンス期イギリスの文化的背景
ルネサンスは14〜15世紀のイタリアで始まり、16世紀にはフランスやイギリスへと波及しました。
イギリスでは、王政の安定と民族意識の高まりの中で、独自の人文主義文化が花開きます。
宗教改革を経てカトリック的世界観が揺らぎ、個人の理性と感情が重んじられる新しい時代が到来しました。
この章では、シェイクスピアが登場する16世紀後半のイギリス社会を、政治・宗教・思想の三つの側面から概観し、ルネサンス文化の成熟がいかに文学の土壌を育んだのかを見ていきます。
1.エリザベス朝の政治的安定と国民意識の高揚
シェイクスピアの活動期は、イギリス史における最盛期といわれるエリザベス1世の治世(1558〜1603年)にあたります。
前代の宗教対立を克服し、強力な中央集権体制を確立したエリザベスは、海洋進出と文化振興を推進しました。
アルマダの海戦(1588年)でスペイン無敵艦隊を撃破したことは、国民の自信を高め、「イギリスという国家」への意識を強く育てました。
この「国家的誇り」と「新時代への自信」は、劇作という新しい表現形式を通じて、民衆文化にも浸透していきます。
2.宗教改革の影響と新しい人間観の誕生
16世紀の宗教改革は、イギリス社会に大きな思想的転換をもたらしました。
カトリックの権威が後退し、人々は神と直接向き合う「信仰の個人化」を経験します。
この過程で、人間の意思・理性・感情が改めて注目され、「人間は自らの行動によって世界を形づくる存在である」というルネサンス的人間観が広がりました。
この思想は、運命に抗い、迷いながらも選択する人間を描くシェイクスピアの登場人物たち――ハムレット、マクベス、オセロなど――に深く反映されています。
彼らの苦悩は、単なる悲劇ではなく、近代的人間の「自我の目覚め」を象徴しているのです。
3.ロンドンの劇場文化と新しい公共空間の誕生
16世紀後半のロンドンでは、経済の発展と都市人口の増加により、劇場が次々と建設されました。
グローブ座をはじめとする常設劇場は、貴族から庶民までが同じ作品を楽しむ新しい公共空間となり、文学が特権層から民衆の文化へと拡大していきました。
この「劇場文化」は、イギリス人の世界観や価値観を統合する役割を果たしました。
そこで上演されたシェイクスピアの作品は、単なる娯楽にとどまらず、国家・宗教・人間の在り方を問う“社会的鏡”でもあったのです。
第2章:シェイクスピアの生涯と作品世界
ルネサンス期のイギリスに生まれたシェイクスピアは、文学史のみならず、世界文化史の中でも特異な存在です。
彼の生涯は多くの謎に包まれていますが、その作品群は、時代の精神を反映しつつも、普遍的な人間の本質を描き出しています。
この章では、彼の生涯の概略と、代表作に込められた思想的背景を整理しながら、ルネサンス的人文主義の体現者としての姿を明らかにします。
1.生涯の概要:ストラトフォードからロンドンへ
ウィリアム・シェイクスピアは1564年、イングランド中部のストラトフォード=アポン=エイヴォンに生まれました。
父は手袋職人で地元の名士、母は旧家出身で、比較的恵まれた家庭環境に育ちます。
地方のグラマースクールで古典教育を受け、ラテン文学や聖書を学んだとされます。
20歳代後半にはロンドンに出て、役者兼脚本家として活動を始め、劇団「国王一座(King’s Men)」の中心人物として頭角を現します。
以後20年以上にわたり、悲劇・喜劇・史劇など約37本の戯曲と、多くの詩作品を残しました。
1616年に故郷で没するまでの生涯は、まさにルネサンス文化の成熟とともに歩んだ生涯でした。
2.作品の三分類 ― 人間のあらゆる相を描く
シェイクスピアの戯曲は、一般に「悲劇」「喜劇」「史劇」の三つに分類されます。
それぞれのジャンルには、ルネサンス的世界観と人間理解の多様な側面が投影されています。
- 悲劇:『ハムレット』『マクベス』『リア王』『オセロ』など
→ 欲望・嫉妬・野心といった人間の内面を描き、理性と情念の葛藤を通じて「自我の目覚め」を表現。 - 喜劇:『夏の夜の夢』『ヴェニスの商人』『十二夜』など
→ 愛や誤解、偶然の連鎖を通じて、人間の愚かさと可笑しさの中の理性を描く。 - 史劇:『ヘンリー五世』『リチャード三世』など
→ 王権や国家の正統性を問いながら、個人と権力・運命の関係を探る。
これらの作品はいずれも、人間そのものを舞台の中心に据えるというルネサンス的特徴を共有しています。
3.ルネサンス的人間観の表現
シェイクスピアの人物造形には、ルネサンス的人間主義(ヒューマニズム)が色濃く反映されています。
登場人物たちは、神の摂理に縛られる存在ではなく、自らの意志で選択し、行動し、苦悩する主体的な人間として描かれます。
たとえば『ハムレット』では、主人公が「生きるべきか死ぬべきか」と自問する姿を通じて、理性と感情、道徳と欲望のはざまで揺れる人間の内的葛藤が表現されます。
それは単なる劇中の心理描写ではなく、「人間とは何か」というルネサンス最大の問いへの文学的回答でもありました。
4.言葉の力と普遍性
シェイクスピアの作品は、巧みな比喩と詩的表現によって知られています。
「この世はすべて舞台、人はみな役者にすぎぬ(『お気に召すまま』)」という言葉に象徴されるように、彼は人生そのものを演劇としてとらえ、人間存在の普遍的ドラマを描き出しました。
この豊かな言語表現と心理描写は、ルネサンスの「言葉の再発見」にも通じ、後世の文学や哲学に多大な影響を与えました。
17世紀以降、シェイクスピアは単なる劇作家ではなく、「人間そのものを描いた詩人」として神格化されていきます。
3章:作品に見るルネサンスの精神 ― 理性・情熱・運命の三つの軸
ルネサンス文学の核心には、「人間とは何か」という根源的な問いがありました。
中世のように神の意志に全てを委ねるのではなく、人間の理性と感情を信じ、自己の運命を切り開こうとする――この新しい人間観が、シェイクスピアの作品世界を貫いています。
この章では、彼の作品に通底する三つの主題 ― 理性・情熱・運命 ― を軸に、ルネサンス精神の表現を読み解きます。
1.理性 ― 人間の知恵と自我の覚醒
ルネサンスは「理性の時代」とも呼ばれます。人間が自ら考え、判断する力を重視する人文主義の思想は、シェイクスピアの登場人物たちの行動原理にも反映されています。
とりわけ『ハムレット』の主人公は、父の仇を討つという行為の正当性と自らの道徳のあいだで苦悩し続けます。
彼の独白は、「考える人間」の象徴として、ルネサンス的人間の理性的自我の誕生を描いているのです。
また『ジュリアス・シーザー』では、ブルータスが「国家への忠誠」と「友情」のあいだで葛藤します。
理性に基づく行動が、やがて悲劇を招くという構図は、理性と倫理の限界というテーマを浮き彫りにしています。
2.情熱 ― 自然な感情と人間の生の肯定
ルネサンスのもう一つの特徴は、「情熱(パトス)」の肯定です。
中世では抑制すべきとされた愛や欲望、嫉妬や怒りといった感情が、シェイクスピアの作品では生の証として肯定的に描かれます。
『ロミオとジュリエット』では、若い恋人たちの激しい愛が悲劇を生む一方で、愛という情熱が人間の尊厳や誠実さを照らし出します。
『オセロ』では嫉妬、『マクベス』では野心という感情が人間を破滅に導きますが、それは同時に、情熱の中に潜む人間の真実を描こうとする試みでもあります。
こうした「感情の可視化」は、ルネサンス期における人間の全的存在の肯定を意味しており、感情の光と影の双方を描くことで、シェイクスピアは人間をより深く理解しようとしたのです。
3.運命 ― 神と人間のはざまで
理性と情熱が高らかに謳われたルネサンスにおいても、運命という概念はなお人間の行動を制約する存在でした。
シェイクスピアは、神の意志を完全に否定することなく、運命と自由意志の緊張関係を描き続けます。
『マクベス』では、魔女の予言が主人公の野心を刺激し、やがて破滅を招くという構図が示されます。
ここでは、運命は外的な宿命ではなく、人間自身の内なる欲望が生み出す“自作の運命”として描かれています。
これはまさに、ルネサンス期の「神中心」から「人間中心」への価値転換を象徴する主題です。
また『リア王』においては、権力や親子愛の崩壊のなかで、運命に翻弄される老王が最終的に人間の無力と慈悲を悟る姿が描かれます。
その結末には、ルネサンス的人間観のもう一つの側面――理性にも情熱にも救われない、人間の限界への静かな洞察――が表れています。
4.三要素の融合 ― 近代的人間の誕生
理性・情熱・運命という三つの要素は、シェイクスピアの作品の中で対立しながらも統合されています。
理性だけでは世界を理解できず、情熱だけでは破滅する。
しかし運命の中でそれらを意識的に選び取るとき、はじめて人間は自らの存在を自覚する――。
このような構図は、中世の宗教的世界観から近代的人間観への橋渡しとなりました。
シェイクスピアが描いた人物たちは、神でも悪魔でもない、矛盾と不完全さを抱えた存在としての「人間」そのものであり、その姿こそがルネサンス文学の到達点なのです。
第4章:シェイクスピアの思想的意義と後世への影響
ルネサンス期の劇作家でありながら、シェイクスピアの作品は単なる時代の産物にとどまらず、その後のヨーロッパ思想・文学・演劇・哲学にまで広がる普遍的影響を与えました。
この章では、彼の思想的意義を三つの観点――人文主義・社会観・文学的影響――から整理し、シェイクスピアがなぜ「人間そのものを描いた詩人」と呼ばれるのかを明らかにします。
1.人文主義の完成者としてのシェイクスピア
ルネサンスの人文主義(ヒューマニズム)は、「人間は理性をもち、自らの力で世界を理解し、行動できる存在である」という思想でした。
シェイクスピアはこの理念を、抽象的な思想ではなく、舞台上の“生きた人間”として描き出した点で独自です。
『ハムレット』の苦悩、『マクベス』の野心、『ロミオとジュリエット』の愛と死。
それぞれの登場人物は、自分の運命を理性で理解しようとしながらも、情熱や倫理の狭間で揺れ動きます。
彼らの姿には、まさにルネサンス的自我――神の秩序から解き放たれ、自己の判断と責任によって生きる人間像――が体現されています。
このように、シェイクスピアは人文主義の思想を文学の中で完成させ、後の近代思想(デカルトやパスカルなど)に続く「人間中心の思考」の基盤を築いたといえます。
2.社会観の変化 ― 世界を「舞台」として見る視点
シェイクスピアの作品には、「人生=舞台」「世界=劇場」という比喩が繰り返し登場します。
これは単なる文学的表現ではなく、社会そのものを相対化して見る新しい視点を示しています。
中世的な社会秩序(神・王・身分)が絶対的でなくなったルネサンス期において、人々は初めて「社会の中で演じる自分」という意識を持ちはじめました。
つまり、シェイクスピアの作品は、個人が社会の役割や立場を“演じる”主体であることを自覚した近代人の誕生を象徴しているのです。
この観点から見ると、『お気に召すまま』や『ヴェニスの商人』は、人間が社会的仮面(マスク)をつけて生きる存在であることを示し、ルネサンス的人間の多面性と自己認識の深まりを描いた作品といえます。
3.文学・思想への広範な影響
シェイクスピアの影響は、文学を超えて哲学や社会思想にも及びました。
18世紀の啓蒙思想家ヴォルテールは彼を「自然の詩人」と評し、ドイツではゲーテが『ヴェルター』や『ファウスト』を通じて人間の内的ドラマを継承しました。
さらに19世紀以降のロマン主義、20世紀の実存主義(カミュ、サルトル)にも、「行動する人間」「選択する人間」**というテーマが連綿と受け継がれています。
また、心理学や政治学の領域でも、シェイクスピアの人物造形は研究対象となり、ハムレットの優柔不断やマクベスの野心は、近代人の心理構造の原型として解釈されてきました。
このように、彼の作品は時代や分野を超え、「人間とは何か」を考える永遠の出発点となっています。
4.近代文化への遺産 ― 普遍的人間像の確立
シェイクスピアが残した最大の遺産は、「普遍的人間像の確立」です。
彼が描く人物は、善悪どちらにも偏らず、理性と情熱、希望と絶望のあいだで揺れる存在です。
この「矛盾に満ちた人間」をありのままに描いたことで、彼の作品はどの時代・文化にも通じる人間理解の原典となりました。
ルネサンスが「神から人間へ」という時代の転換を象徴したなら、シェイクスピアはその流れを受けて、「人間の内面の宇宙」を描いた文学の到達点に到達したといえるでしょう。
その意味で、彼は単なる劇作家ではなく、ルネサンス思想の総仕上げを担った「精神の記録者」でもあるのです。
第5章:シェイクスピアとルネサンス文学の比較 ― イタリア人文主義との接点
ルネサンスの文化運動は、14世紀のイタリアに始まり、やがてヨーロッパ全土に広がりました。
イギリスのシェイクスピアも、その延長線上に位置づけられる存在ですが、彼の作品にはイタリア人文主義との共通点と、イギリス独自の変化の両方が見られます。
この章では、ペトラルカやマキャベリなどのイタリア人文主義者との比較を通して、シェイクスピア文学がいかにルネサンス思想を発展させたかを整理します。
1.ペトラルカ的人文主義 ― 内省と感情の復権
ルネサンスの父とされるペトラルカは、「人間の心」を文学の中心に据えた人物でした。
神学的真理よりも、人間の内的葛藤や感情の揺らぎに焦点を当てる――この発想は、のちのヨーロッパ文学に決定的な影響を与えます。
シェイクスピアの『ソネット集』にも、まさにこのペトラルカ的要素が色濃く表れています。
愛と時間、肉体と精神、美と虚無といった主題を通じて、「人間の感情の矛盾」を詩として昇華させたのです。
ペトラルカが信仰と理性の間で人間の内面を見つめたように、シェイクスピアもまた、情熱と理性のせめぎ合いを人間の本質として描き出しました。
2.マキャベリとの思想的対比 ― 理想と現実の間で
マキャベリの『君主論』は、理想よりも現実の政治を重視する現実主義の書として知られます。
人間を「理性あるが欲望に支配される存在」として描いた点で、シェイクスピアと通じる部分が多くあります。
例えば『マクベス』では、権力への野心が人間をいかに腐敗させるかが描かれますが、そこにはマキャベリ的な「人間の本性は善悪の混合体である」という現実的洞察が感じられます。
しかし、両者の間には決定的な違いもあります。
マキャベリが政治的成功のために道徳を超える行動を肯定したのに対し、シェイクスピアは人間の倫理的責任と悲劇的帰結を描くことで、現実主義に対する人文主義的制約を示しました。
この点で、彼は「理想と現実の葛藤」というルネサンスの根本的テーマを、政治ではなく人間の心の内側で展開させた劇作家といえます。
3.ルネサンスの「普遍人」概念とシェイクスピア的人間像
ルネサンスの理想像である「ウオモ・ウニヴェルサーレ(万能人)」――つまり芸術・学問・倫理などあらゆる面で調和のとれた人間――は、ダ・ヴィンチやアルベルティに象徴されます。
しかし、シェイクスピアの描く人物たちは、必ずしも万能でも完璧でもありません。
むしろ彼らは、矛盾や欠陥を抱えた“等身大の人間”です。
この違いは、文化的土壌にも由来します。
イタリア・ルネサンスが「理想的調和」を求めたのに対し、イギリス・ルネサンスは宗教改革後の不安定な社会を背景に、「現実の人間」を見つめ直す傾向がありました。
そのため、シェイクスピアは“普遍人”ではなく、「苦悩しながら成長する人間」を描き出したのです。
この人間像は、近代文学の「心理的リアリズム」への先駆けともなりました。
4.文学形式の発展 ― 詩から劇へ
イタリア・ルネサンスでは、ペトラルカやボッカチオに代表されるように、詩や散文が中心でした。
それに対し、シェイクスピアは劇という総合芸術の形式を通じて、人文主義的思想を社会全体に浸透させました。
劇場は、貴族も市民も同じ空間に集う場であり、彼の作品はあらゆる階層の人々に「人間とは何か」を問いかけました。
この点で、彼の文学は“人文主義の大衆化”とも言える役割を果たし、ルネサンス文化を貴族中心の知的運動から、国民的文化へと変貌させたのです。
5.ルネサンスの終焉とシェイクスピアの遺産
17世紀に入ると、ルネサンスの理想はしだいに終焉を迎えます。
宗教戦争や科学革命によって、人間理性への信頼が揺らぐ中、シェイクスピアの作品はその過渡期の不安と希望の交錯を描き出しました。
彼は、人文主義の理想を肯定しつつも、その限界をも示した「最後のルネサンス人」といえるでしょう。
つまり、ルネサンスの理念(人間の尊厳)を文学的に完成させ、同時にその終焉を告げた人物――それがシェイクスピアなのです。
入試で狙われるポイントと頻出問題演習
入試では、シェイクスピアを単なる文学者としてではなく、ルネサンス文化の到達点を象徴する人物として理解しているかが問われます。
神中心から人間中心へという時代の変化、イギリス文化の成熟、そして人文主義思想の展開を文脈で説明できることが鍵です。
ここでは、重要論点の整理と論述・正誤問題を通じて、理解を定着させましょう。
入試で狙われるポイント(10項目)
- シェイクスピアはイギリス・ルネサンス文学の代表的劇作家である。
- 活躍期はエリザベス1世の治世であり、政治的安定と文化繁栄が背景にある。
- 彼の作品は、人文主義(ヒューマニズム)の完成形として人間の内面を描く。
- 代表作には『ハムレット』『マクベス』『オセロ』『リア王』『ロミオとジュリエット』などがある。
- 「理性・情熱・運命」の三要素を通じ、近代的人間像を提示した。
- 劇場文化(グローブ座など)は、民衆文化と国家意識の融合を象徴した。
- ペトラルカ的人文主義の系譜を引き、感情の表現と内省を文学に取り入れた。
- マキャベリ的現実主義を内包しつつも、倫理的責任を強調する点に特徴がある。
- ルネサンス終焉期の人物として、理性の限界や人間の矛盾を描いた。
- シェイクスピアの文学は、のちのヨーロッパ思想(啓蒙・ロマン主義・実存主義)へ影響を及ぼした。
重要論述問題にチャレンジ
論述問題①
シェイクスピアの作品に表れるルネサンス的人間観を、理性・情熱・運命の関係に触れながら説明せよ。
解答例
シェイクスピアの作品では、神の秩序に従う中世的世界観から脱し、理性と情熱をもつ人間が自らの行動によって運命を切り開こうとする姿が描かれている。『ハムレット』や『マクベス』に見られるように、理性は人間を導く一方で、欲望や感情がそれを揺さぶり、葛藤と悲劇を生む。この「理性と情熱の対立」は、ルネサンス的人間観の核心であり、シェイクスピアはその中に人間の尊厳と限界を同時に見出した。彼の作品は、理性と感情の調和を模索する近代的人間の出発点を示している。
論述問題②
イタリア・ルネサンス文学と比較して、シェイクスピア文学の特徴を説明せよ。
解答例
イタリア・ルネサンス文学が理想的調和や知的美を追求したのに対し、シェイクスピアは現実の人間の矛盾と葛藤を描いた。ペトラルカが愛と信仰の内的世界を詩に表現したのに対し、シェイクスピアは劇という形式を用い、社会の中で行動する人間を描き出した。また、彼はマキャベリ的現実主義を受け継ぎつつ、倫理的責任を重んじた点で人文主義を深化させた。このように、彼の文学はルネサンス精神を大衆的かつ普遍的次元へと発展させた。
論述問題③
シェイクスピアがルネサンス文化の「到達点」とされる理由を説明せよ。
解答例
シェイクスピアは、理性・感情・運命の三要素を通して人間の全体像を描き、ルネサンス的人文主義を文学として完成させた。彼の作品は神中心から人間中心への価値転換を示しつつも、理性の限界や人間の悲劇性を見据えており、理想と現実の双方を描いた点でルネサンスの総決算といえる。その思想的深みと普遍性が、彼をルネサンス文化の到達点たらしめている。
間違えやすいポイント・誤答パターン集(10項目)
1.「シェイクスピア=ルネサンス初期」と誤解
→ 実際は16世紀後半〜17世紀初頭、**ルネサンス後期(成熟期〜終焉期)**の人物。
2.「神中心から完全に脱却した」と誤答
→ 彼は神の存在を否定せず、運命と自由意志の緊張関係を描いた。
3.「作品=単なる恋愛劇」
→ 『ロミオとジュリエット』なども、社会秩序と個人の対立が主題。
4.「ハムレット=優柔不断な人物」と単純化
→ 実際は、倫理的葛藤と理性の限界を象徴する人物。
5.「ペトラルカと同時代」と混同
→ ペトラルカは14世紀、シェイクスピアは16世紀末。
6.「マキャベリと同じ現実主義者」
→ シェイクスピアは倫理的判断と道徳的責任を描いた点で異なる。
7.「劇=上流階級向け」
→ グローブ座などでは庶民にも開かれた大衆文化であった。
8.「理性=善、情熱=悪」と捉える誤り
→ 彼の作品ではどちらも人間性の一部として肯定的に描かれる。
9.「作品は宗教と無関係」
→ 宗教改革後の不安定な社会背景を反映している。
10.「ルネサンス文化=イタリアで完結」
→ シェイクスピアによって北欧・英文学へと拡張された。
頻出正誤問題(10問)
問1
シェイクスピアは14世紀のイタリア・ルネサンスを代表する詩人である。
解答:✕
🟦【解説】16〜17世紀イギリスの劇作家であり、イタリアではなくイギリス・ルネサンスの代表。
問2
『ハムレット』『マクベス』『オセロ』『リア王』はいずれも悲劇に分類される。
解答:〇
🟦【解説】四大悲劇と呼ばれ、人間の内面と運命の葛藤を描く。
問3
シェイクスピアの時代、ロンドンでは常設劇場が発展し、民衆文化として演劇が広まった。
解答:〇
🟦【解説】グローブ座を中心に、エリザベス朝演劇が隆盛した。
問4
『ロミオとジュリエット』は宗教的救済を主題とした劇である。
解答:✕
🟦【解説】主題は個人の愛と社会的秩序の衝突であり、宗教劇ではない。
問5
シェイクスピアはペトラルカと同時代に活動した。
解答:✕
🟦【解説】ペトラルカは14世紀のイタリア、シェイクスピアは16世紀後半のイギリス。
問6
シェイクスピアの作品は、理性や情熱など人間の内的要素を重視している。
解答:〇
🟦【解説】ルネサンス的人文主義の思想が作品全体に通底する。
問7
『ヴェニスの商人』では、商業社会における人間の倫理や正義が主題となっている。
解答:〇
🟦【解説】「契約」や「慈悲」といった近代的価値観を問い直す作品。
問8
シェイクスピアの文学は、近代文学や哲学にほとんど影響を与えなかった。
解答:✕
🟦【解説】ゲーテやトルストイなど多くの作家・思想家に影響を与えた。
問9
エリザベス1世の治世下での繁栄は、シェイクスピアの活動に追い風となった。
解答:〇
🟦【解説】政治的安定と文化振興により、劇場文化が栄えた。
問10
シェイクスピアはルネサンス人文主義の理念を文学的に完成させた人物である。
解答:〇
🟦【解説】人間の理性・感情・倫理を総合的に描いた点で、ルネサンスの総決算的存在。
🟩まとめ
- シェイクスピアはルネサンス精神の総合的体現者である。
- 彼の文学は「人間中心の世界観」と「人間の限界の認識」を両立させた。
- 入試では、イタリア人文主義との比較、理性・情熱・運命の三要素、エリザベス朝文化の背景が特に頻出。
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