近代ヨーロッパにおいて、人々はなぜ絶対王政を批判し、新しい政治の形を求めたのでしょうか。
その核心にあったのが社会契約説です。ホッブズ・ロック・ルソーといった思想家たちは、国家と個人との関係を契約に基づいて説明し、王権神授説に代わる政治の正統性を与えました。
本記事では、絶対王政の時代背景から社会契約説の誕生と発展をたどり、市民革命へとつながる近代国家形成の道筋を整理していきます。
第1章 絶対王政と王権神授説の限界
社会契約説が登場する背景には、絶対王政の専制とそれを支える「王権神授説」への疑問がありました。
まずは、17世紀ヨーロッパでどのように王の権威が正当化されていたのかを理解し、その限界を確認しましょう。

1. 絶対王政の成立
16〜17世紀のヨーロッパでは、宗教戦争や封建貴族の弱体化を背景に、君主の権力が集中する「絶対王政」が成立しました。
フランスのルイ14世に代表されるように、王は強力な常備軍と官僚制を整備し、国内の統一を図りました。
この時代、国家は君主の意思に左右される強権的な体制をとっていました。
2. 王権神授説とは
絶対王政を支えた思想が「王権神授説」です。
これは「王の権力は神から授けられたものであり、人民はそれに逆らえない」とする考え方で、フランスのボシュエらによって理論化されました。
王の権威を宗教的に裏付けることで、人民による抵抗を否定し、君主の専制を正当化しました。
3. 王権神授説の限界
しかし、宗教戦争や重税、戦争による国民負担が増大すると、王の権威そのものに疑問が生じます。
イギリスでは清教徒革命(1640年)や名誉革命(1688年)が起こり、国王と議会の関係をめぐる対立が顕在化しました。
このような社会的矛盾が、契約によって国家を説明し直そうとする「社会契約説」の登場を促しました。
入試で狙われるポイント
- 絶対王政の典型例はルイ14世(朕は国家なり)。
- 王権神授説を唱えたのはフランスのボシュエ。
- 清教徒革命や名誉革命は、王権神授説批判と社会契約説登場の背景。
- 絶対王政と王権神授説の関係を説明し、それが社会契約説の登場につながった背景を200字程度で述べよ。
-
16〜17世紀のヨーロッパでは、君主権力を強化する絶対王政が成立し、その正統性を支えたのが王権神授説であった。王は神から権力を授かったとされ、人民は抵抗できなかった。しかし、重税や戦争による国民負担が拡大するにつれて専制への不満が強まり、イギリスでは清教徒革命や名誉革命が起こった。こうした社会的矛盾を背景に、国家を契約に基づいて説明し直そうとする社会契約説が登場した。
第1章: 社会契約説と近代国家の成立 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10問)
問1
ルイ14世が示した絶対王政を象徴する言葉は何か。
解答:朕は国家なり
問2
王権神授説を唱えたフランスの聖職者は誰か。
解答:ボシュエ
問3
清教徒革命の指導者で、共和政を樹立した人物は誰か。
解答:クロムウェル
問4
1688年の名誉革命で新たに即位した王は誰か。
解答:ウィリアム3世
問5
イギリスで名誉革命後に制定された、議会主権を定めた文書は何か。
解答:権利の章典
問6
ルイ14世が建設した宮殿は何か。
解答:ヴェルサイユ宮殿
問7
フランスの絶対王政期に活躍した財務総監で重商主義政策を推進したのは誰か。
解答:コルベール
問8
イギリスで王権神授説を理論化した思想家は誰か。
解答:フィルマー
問9
名誉革命で成立した立憲王政を象徴する政治体制を何というか。
解答:議会主権
問10
絶対王政を批判し、社会契約説を提唱した最初の思想家は誰か。
解答:ホッブズ
正誤問題(5問)
問11
ルイ14世は「国家は朕に奉仕する」と述べて絶対王政を正当化した。
解答:誤(正しくは「朕は国家なり」)
問12
王権神授説は王権の正統性を神に求めたため、人民の抵抗権を認めなかった。
解答:正
問13
名誉革命後、イギリスでは共和政が確立した。
解答:誤(立憲王政が成立した)
問14
清教徒革命を主導したクロムウェルは、護国卿として独裁的権力を握った。
解答:正
問15
権利の章典は王権を制限し、議会主権の原則を確立した。
解答:正
第2章 ホッブズの社会契約説と絶対主義の理論化
社会契約説は、必ずしも最初から「人民主権」や「自由の拡大」と結びついたわけではありません。
最初に社会契約を用いて国家を説明したホッブズは、むしろ絶対的な主権を肯定しました。
ここでは彼の思想を詳しく見ていきましょう。
1. 自然状態と万人の闘争
ホッブズは著書『リヴァイアサン』で、人間が国家や法のない状態(自然状態)では「万人の万人に対する闘争」が起きるとしました。
この状態では、人間は自己保存の欲求から互いに敵対し、平和も秩序も存在しません。
2. 社会契約と主権者
この混乱を避けるために、人々は互いに契約を結び、全ての権利を一人の権力者(主権者)に譲渡するとホッブズは説きました。
こうして国家が成立し、主権者は法と秩序を維持する絶対的権力を持つことになります。
3. 絶対主義の理論的支柱
ホッブズの社会契約説は、人民の合意によって国家を成立させる点で近代的でしたが、その結論は「絶対王政の正当化」につながります。
つまり、国家権力の由来を神ではなく人民に求めながらも、最終的には専制を支持したのです。
入試で狙われるポイント
- 『リヴァイアサン』の著者=ホッブズ。
- 自然状態=「万人の万人に対する闘争」。
- 契約によって生まれるのは絶対的な主権者。
- ホッブズの社会契約説において「自然状態」と「主権者」の関係を200字程度で説明せよ。
-
ホッブズは『リヴァイアサン』で、人間は自然状態において自己保存の欲求から「万人の万人に対する闘争」を行うと述べた。この無秩序を避けるために、人々は契約を結び、全ての権利を一人の主権者に譲渡する。こうして国家が成立し、主権者は絶対的権力を持って秩序を維持する。よってホッブズの社会契約説は、契約に基づく国家成立を説きつつ、実際には絶対王政を正当化する理論となった。
第2章: 社会契約説と近代国家の成立 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10問)
問1
ホッブズが著した代表的著作は何か。
解答:リヴァイアサン
問2
ホッブズが描いた自然状態はどのような言葉で表現されるか。
解答:万人の万人に対する闘争
問3
自然状態における人間の行動原理は何か。
解答:自己保存
問4
ホッブズの社会契約説において、権利は誰に譲渡されるか。
解答:主権者
問5
ホッブズの社会契約説は最終的に何を正当化したか。
解答:絶対王政
問6
ホッブズが生きた時代、イギリスで起きていた大きな政治的事件は何か。
解答:清教徒革命
問7
『リヴァイアサン』の書名は何を象徴しているか。
解答:強大な国家権力
問8
ホッブズの思想は王権神授説と何が異なるか。
解答:国家権力の由来を神ではなく人民の契約に求めた点
問9
ホッブズは人間の本性を基本的にどう捉えたか。
解答:利己的で攻撃的
問10
ホッブズの思想は後の社会契約説と比べてどう評価されるか。
解答:近代的だが結論は専制を支持
正誤問題(5問)
問11
ホッブズの社会契約説では、人間は自然状態で調和的に共存するとされた。
解答:誤(自然状態は「万人の万人に対する闘争」)
問12
『リヴァイアサン』の表紙には巨大な王の姿が描かれている。
解答:正
問13
ホッブズは主権者の権力は人民がいつでも取り消せると考えた。
解答:誤(権利譲渡は無条件で絶対的)
問14
ホッブズの思想は清教徒革命の混乱を背景に生まれた。
解答:正
問15
ホッブズは王権神授説を継承し、神の権威を基盤に国家を正当化した。
解答:誤(国家の起源を人民の契約に求めた)
第3章 ロックの社会契約説と立憲主義の基盤
ホッブズが絶対主義を理論化したのに対し、ロックは人民の自由と権利を重視しました。
彼の社会契約説は、イギリスの名誉革命を背景に発展し、近代立憲主義の理論的基盤を築きました。
特に「抵抗権」の思想は、後のアメリカ独立革命やフランス革命に大きな影響を与えます。
1. 自然権と自然状態
ロックは著書『統治二論(市民政府二論)』で、人間には生まれながらに生命・自由・財産といった「自然権」が備わっているとしました。
自然状態においても人々は理性を持ち、一定の秩序を維持できると考えました。
2. 社会契約と政府の役割
人々は自然権をより確実に守るために契約を結び、政府を設立します。
ただし、その政府は自然権を保護するために存在し、人民から権力を一部委託された存在に過ぎません。
3. 抵抗権と名誉革命
もし政府が自然権を侵害するならば、人民には政府を倒す「抵抗権」があるとロックは説きました。
この思想は1688年の名誉革命を理論的に正当化し、イギリスに立憲王政をもたらしました。
ロックの社会契約説は、自由主義と議会政治の土台となり、近代国家の方向性を決定づけました。
入試で狙われるポイント
- 著作『統治二論(市民政府二論)』。
- 自然権=生命・自由・財産。
- 抵抗権の思想=名誉革命の正当化。
- ロックの社会契約説における自然権と抵抗権の関係を200字程度で説明せよ。
-
ロックは『統治二論』で、人間には生命・自由・財産といった自然権が生まれながらに備わっていると説いた。自然状態においても人々は理性に従って秩序を保てるが、自然権をより確実に守るために社会契約を結び、政府を設立する。しかし政府が自然権を侵害するならば、人民にはこれを打倒する抵抗権がある。こうしてロックは、名誉革命を理論的に正当化し、立憲主義の基盤を築いた。
第3章: 社会契約説と近代国家の成立 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10問)
問1
ロックの代表的著作は何か。
解答:統治二論(市民政府二論)
問2
ロックが説いた自然権の三要素は何か。
解答:生命・自由・財産
問3
ロックにとって自然状態はどのような状態か。
解答:理性に基づき秩序を維持できる状態
問4
ロックによれば政府は何のために存在するか。
解答:自然権の保護
問5
政府が自然権を侵害した場合、人民に認められる権利は何か。
解答:抵抗権
問6
ロックの社会契約説が理論的に支えたイギリスの革命は何か。
解答:名誉革命
問7
名誉革命後に制定された文書は何か。
解答:権利の章典
問8
ロックの思想は後にどの国の独立や革命に影響を与えたか(2つ)。
解答:アメリカ独立革命、フランス革命
問9
ロックの思想は後世、何主義の基盤となったか。
解答:自由主義
問10
ロックは政府の権力を誰から委託されたものと考えたか。
解答:人民
正誤問題(5問)
問11
ロックの社会契約説では、自然状態は「万人の万人に対する闘争」であった。
解答:誤(それはホッブズの考え)
問12
ロックは政府を自然権保護のために人民が設立すると考えた。
解答:正
問13
ロックの思想は絶対王政を正当化する理論として展開した。
解答:誤(立憲主義を正当化した)
問14
抵抗権の思想は、政府が自然権を侵害した場合にのみ認められる。
解答:正
問15
ロックの思想はアメリカ独立革命に全く影響を与えなかった。
解答:誤(大きな影響を与えた)
第4章 ルソーの社会契約説と人民主権
ホッブズが絶対主義を正当化し、ロックが立憲主義を支えたのに対し、ルソーはさらに一歩進めて「人民主権」の思想を打ち立てました。
彼の社会契約論は、18世紀の啓蒙思想と結びつき、フランス革命の理論的支柱となります。
「一般意志」という概念は、近代民主主義の根幹をなす重要なキーワードです。
1. 『社会契約論』と一般意志
ルソーは『社会契約論』において、人間は自由で平等であるべきだと強調しました。
彼によれば、個々人は契約を通じて全体としての「一般意志」に従い、そのもとでこそ真の自由が実現するとされます。
2. 人民主権の思想
ルソーの考える契約では、権力を特定の君主や議会に委ねるのではなく、人民全体に帰属させます。
つまり、主権は人民に存するという「人民主権」の思想です。
3. フランス革命への影響
この思想は、1789年のフランス革命に大きな影響を与えました。
「自由・平等・博愛」というスローガンや、人権宣言に見られる人民主権の原理は、ルソーの思想を強く反映しています。
ただし、一般意志が独裁的に解釈される危険性もはらんでおり、その二面性も理解しておく必要があります。
入試で狙われるポイント
- 『社会契約論』の著者=ルソー。
- 一般意志と人民主権は必ずセットで出題。
- フランス革命・人権宣言への影響を押さえる。
- ルソーの社会契約説における「一般意志」と「人民主権」の意義を200字程度で述べよ。
-
ルソーは『社会契約論』において、人間は本来自由で平等であるとし、その自由を保障するために社会契約を結ぶと説いた。その契約に基づく政治は、人民全体の共通利益を体現する「一般意志」に従うべきであり、主権は君主や議会ではなく人民に存する。この人民主権の思想は、フランス革命や人権宣言に強い影響を与え、近代民主主義の根幹をなす理念となった。
第4章: 社会契約説と近代国家の成立 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10問)
問1
『社会契約論』を著した思想家は誰か。
解答:ルソー
問2
ルソーの社会契約説において、個人は何に従うことで自由を得るとされたか。
解答:一般意志
問3
ルソーの思想の核心である政治原理は何か。
解答:人民主権
問4
ルソーの思想が直接影響を与えた18世紀末の出来事は何か。
解答:フランス革命
問5
フランス革命期に採択された人民主権を明文化した文書は何か。
解答:人権宣言
問6
ルソーの思想が提唱した「自由」とはどのような自由か。
解答:一般意志に従うことによる自由
問7
「自由・平等・博愛」というスローガンに影響を与えた思想家は誰か。
解答:ルソー
問8
ルソーは社会契約において権力を誰に委ねると考えたか。
解答:人民全体
問9
ルソーの思想は後にどのような政治体制の理論的根拠になったか。
解答:近代民主主義
問10
一般意志の概念にはどのような危険性も指摘されるか。
解答:独裁的に解釈される可能性
正誤問題(5問)
問11
ルソーの『社会契約論』は「人間は自由で平等である」と強調した。
解答:正
問12
ルソーは「社会契約」を通じて君主への服従を正当化した。
解答:誤(人民主権を主張した)
問13
一般意志は人民全体の共通利益を意味する。
解答:正
問14
ルソーの思想はアメリカ独立革命には全く影響を与えなかった。
解答:誤(自由・平等の理念を共有し影響を与えた)
問15
ルソーの思想には独裁的運用の危険性が内在していた。
解答:正
まとめ 社会契約説と近代国家の成立を振り返る
社会契約説は、単なる抽象的な思想ではなく、ヨーロッパの絶対王政から近代市民社会への転換を理論的に支えた重要な枠組みでした。
- ホッブズは「万人の万人に対する闘争」という自然状態を想定し、秩序維持のために絶対的主権者の必要性を説きました。
- ロックは自然権(生命・自由・財産)を守るために政府が存在するとし、抵抗権を通じて立憲主義を正当化しました。
- ルソーは「一般意志」と「人民主権」を唱え、フランス革命の理論的支柱となりました。
このように、同じ「社会契約説」という枠組みの中でも、思想家によって結論は大きく異なります。
しかし、それぞれが近代政治思想の発展に不可欠な役割を果たしたことは間違いありません。
大学受験においては、ホッブズ・ロック・ルソーの思想の「違い」を押さえるだけでなく、歴史的背景(絶対王政→名誉革命→フランス革命)とのつながりを理解することが得点力につながります。
年表で整理:社会契約説と歴史の流れ
- 1640年 清教徒革命(ホッブズの思想背景)
- 1651年 ホッブズ『リヴァイアサン』刊行
- 1688年 名誉革命(ロックの思想背景)
- 1690年 ロック『統治二論』刊行
- 1789年 フランス革命(ルソーの思想が影響)
- 1762年 ルソー『社会契約論』刊行
フローチャートで理解:社会契約説と近代国家形成
絶対王政と王権神授説
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ホッブズ『リヴァイアサン』
→ 秩序維持のための絶対主権
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ロック『統治二論』
→ 自然権保障と抵抗権
→ 名誉革命を正当化
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ルソー『社会契約論』
→ 一般意志・人民主権
→ フランス革命へ
入試で狙われるポイント
- 「ホッブズ=万人の万人に対する闘争」「ロック=自然権と抵抗権」「ルソー=一般意志と人民主権」は定番のセット。
- 思想家名と著作名は必ず一致させて覚えること。
- 歴史的事件(清教徒革命・名誉革命・フランス革命)とのつながりがよく問われる。
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