近世ヨーロッパの絶対王政を支えた思想の一つが「王権神授説」です。
これは「国王の権力は神から直接授けられたものであり、臣下はこれに服従すべきである」という考え方で、17世紀から18世紀にかけて大きな影響力を持ちました。
王権神授説はフランス絶対王政の理論的支柱となり、ルイ14世の「朕は国家なり」という言葉とも深く結びつきます。
一方、やがてロックやルソーらの社会契約説と衝突し、近代的な立憲政治への転換を促すきっかけにもなりました。
この記事では、王権神授説の成立背景・代表的思想家・社会契約説との対比を整理し、入試で狙われやすい論点を徹底解説します。
第1章 王権神授説の成立と思想的背景
絶対王政の成立過程において、「なぜ王の権力が正当なのか」を説明する理論が必要とされました。
その中で登場したのが「王権神授説」です。中世の教皇権との対立を背景に、近世の国王は自らの権力を神聖化し、臣下や教会の干渉を退けようとしました。
1. 中世から近世への流れ
中世ヨーロッパでは、王権と教皇権の対立が繰り返されてきました。
叙任権闘争やカノッサの屈辱に象徴されるように、国王はしばしばローマ教皇の権威に挑戦し、支配の正統性をめぐる争いが続いていました。
近世に入り、宗教改革や宗教戦争を経て世俗権力の強化が進む中、王権を神聖なものとして位置づけ直す必要が生じました。
2. 王権神授説の基本原理
王権神授説は「国王は神の代理人である」という発想に基づきます。
この理論によれば、王の権力は人民や貴族の合意に由来するのではなく、神から直接授けられたものとされます。
そのため、臣下は王に絶対的に服従すべきとされ、反乱や抵抗は神に逆らう行為とみなされました。
3. 代表的な思想家:ボシュエ
王権神授説を体系的に理論化したのがフランスの聖職者ジャック=ベニーニュ=ボシュエ(1627〜1704)です。
ルイ14世の宮廷司祭として仕えた彼は、『政治論』の中で「王の権力は神聖にして不可侵である」と主張しました。
この理論はブルボン朝絶対王政の正当化に大きな役割を果たし、フランスにおける王権の強化を思想面から支えました。
4. 絶対王政との結びつき
王権神授説は、重商主義政策や常備軍の整備といった絶対王政の制度的基盤を思想的に裏付けました。
特にルイ14世の統治は「王権神授説の実践」として象徴的に語られます。
その一方で、この考え方は貴族や市民階級からの反発を生み、やがて社会契約説の発展につながります。
入試で狙われるポイント
- 王権神授説は「国王の権力は神から授けられた」という理論であること
- ボシュエがその代表的思想家であり、『政治論』で主張したこと
- ルイ14世の絶対王政を正当化する根拠となったこと
- 社会契約説との対立構図(ロックやルソー)を押さえると論述でも有利
- 王権神授説を絶対王政の正当化理論として論じ、社会契約説との相違点を200字程度で説明せよ。
-
王権神授説は、国王の権力が神から直接授けられたものであるとし、臣下の服従を正当化する理論であった。これに対し、ロックやルソーの社会契約説は、権力は人民の合意に基づくと主張し、抵抗権や人民主権を強調した。両者の相違は、絶対王政と近代的立憲政治の思想的対立を示すものである。
第1章: 王権神授説 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10問)
問1
王権神授説を体系化したフランスの聖職者は誰か。
解答:ボシュエ
問2
ボシュエが著した王権神授説の代表的著作は何か。
解答:『政治論』
問3
ルイ14世が象徴する政治体制は何か。
解答:絶対王政
問4
王権神授説において国王の権力は誰から授けられるとされたか。
解答:神
問5
王権神授説に基づけば、反乱や抵抗は誰に逆らうこととされるか。
解答:神
問6
イギリスで王権神授説を唱えた国王は誰か。
解答:ジェームズ1世
問7
王権神授説と対立した、人民の合意を基盤とする理論は何か。
解答:社会契約説
問8
ロックの著作『統治二論』が唱えた政治的権利は何か。
解答:抵抗権
問9
ルソーの著作『社会契約論』で強調された原理は何か。
解答:人民主権
問10
王権神授説は特にどの国の絶対王政を正当化する理論として発展したか。
解答:フランス
正誤問題(5問)
問11
王権神授説では、国王の権力は貴族の合意によって正当化されるとされた。
解答:誤(神から直接授けられるとされた)
問12
ボシュエは『政治論』で王権の神聖性と不可侵性を説いた。
解答:正
問13
王権神授説はフランスよりもイギリスで強く展開された。
解答:誤(フランスで強く展開されたが、イギリスにも影響はあった)
問14
ロックやルソーは王権神授説を批判し、人民の合意を重視した。
解答:正
問15
王権神授説は近代立憲主義の理論的基盤となった。
解答:誤(絶対王政を支える理論であった)
第2章 社会契約説との対比と王権神授説の衰退
王権神授説が絶対王政を支えた一方で、それに対抗する思想が登場しました。
それが社会契約説です。人間の理性や人民の合意を重視するこの考え方は、絶対王政を批判し、近代的な立憲政治や民主主義へとつながっていきました。
王権神授説と社会契約説の対立を理解することは、ヨーロッパ近代史を学ぶうえで欠かせないポイントです。
1. 社会契約説の登場
社会契約説は、国家や政治権力が「神の意志」ではなく「人民の合意」によって成立するとする考え方です。
宗教戦争や絶対王政の圧制を背景に、17〜18世紀の思想家たちは、人間の自然権を尊重しつつ、理性的に国家の正統性を説明しようとしました。

2. ロックと抵抗権
イギリスのジョン=ロック(1632〜1704)は『統治二論』で社会契約説を唱えました。
彼によれば、政府は人民の信託によって成立し、人民の生命・自由・財産を守る義務を負います。
もし政府が専制に陥れば、人民には「抵抗権」が認められると主張しました。この思想は名誉革命後のイギリス立憲政治の理論的基盤となりました。
3. ルソーと人民主権
フランスのジャン=ジャック=ルソー(1712〜1778)は『社会契約論』で「人民主権」を強調しました。
彼は一般意思に基づく政治を理想とし、主権は国王や貴族ではなく人民全体に属すると説きました。
この思想はフランス革命に大きな影響を与え、絶対王政から民主主義への転換点となりました。
4. 王権神授説の限界と衰退
社会契約説の広まりは、王権神授説の権威を揺るがしました。
啓蒙思想の進展とともに、絶対王政の支配は時代遅れとなり、フランス革命やアメリカ独立革命を経て、王権神授説は政治思想としての役割を終えていきました。
思想史的には「神に基づく権力」から「人民に基づく権力」への転換が決定づけられたのです。
入試で狙われるポイント
- 王権神授説と社会契約説の「権力の根拠」の違い
- ロック『統治二論』=抵抗権、ルソー『社会契約論』=人民主権というキーワード
- 社会契約説が名誉革命・フランス革命につながったこと
- 「王権神授説の衰退=絶対王政から立憲主義・民主主義への移行」という流れ
- 王権神授説と社会契約説の違いを踏まえ、両者の思想的役割を200字程度で説明せよ。
-
王権神授説は国王の権力を神の意志に由来するとし、絶対王政を正当化した。一方、社会契約説は国家は人民の合意に基づくと主張し、人民の権利を守るために政府が存在すると説いた。ロックは抵抗権を認め、ルソーは人民主権を唱えた。両者の対立は、絶対王政から近代的立憲政治への転換を象徴するものであった。
第3章: 王権神授説 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10問)
問1
社会契約説を唱えたイギリスの思想家は誰か。
解答:ロック
問2
ロックの代表的著作は何か。
解答:『統治二論』
問3
ロックが主張した、政府が専制に陥ったときに人民が持つ権利は何か。
解答:抵抗権
問4
フランスで社会契約説を展開した思想家は誰か。
解答:ルソー
問5
ルソーの代表的著作は何か。
解答:『社会契約論』
問6
ルソーが説いた、主権は人民全体にあるとする原理は何か。
解答:人民主権
問7
社会契約説が理論的基盤となった、1688年のイギリスの政治的出来事は何か。
解答:名誉革命
問8
ルソーの思想が強く影響を与えた18世紀末の出来事は何か。
解答:フランス革命
問9
社会契約説の根底にある、人間が生まれながらに持つ権利を何というか。
解答:自然権
問10
王権神授説と社会契約説の決定的な相違点は何か。
解答:権力の根拠が神か人民か
正誤問題(5問)
問11
ロックは『社会契約論』で人民主権を唱えた。
解答:誤(『統治二論』で抵抗権を説いたのはロック。人民主権はルソー)
問12
ルソーは一般意思に基づく統治を理想とした。
解答:正
問13
社会契約説は絶対王政を強化するために生まれた理論である。
解答:誤(絶対王政を批判し、立憲主義や民主主義の理論基盤となった)
問14
自然権思想は社会契約説の基盤をなす考え方である。
解答:正
問15
社会契約説の広がりによって王権神授説は衰退した。
解答:正
第3章 王権神授説と近代政治思想への影響
王権神授説は絶対王政を正当化する思想として登場しましたが、その存在は逆説的に近代政治思想の発展を促しました。
社会契約説や啓蒙思想は、王権神授説を批判することで発展し、やがて立憲主義や民主主義の基盤を形成していきます。
ここでは、王権神授説がどのように近代政治思想へと影響を与えたのかを整理してみましょう。
1. 絶対王政の思想的基盤としての役割
王権神授説は、ルイ14世やジェームズ1世など絶対王政を推し進めた王たちにとって不可欠の理論的支柱でした。
特にフランスにおいては、ボシュエが「王は神の代理人である」と説いたことで、絶対王政の正統性が強化されました。
2. 批判の対象としての王権神授説
王権神授説の存在は、ロックやルソーといった思想家が「権力の正当性は人民の合意に基づく」という社会契約説を唱える契機となりました。
つまり、王権神授説がなければ、近代的な政治思想の発展は遅れていたかもしれません。
3. 啓蒙思想とのつながり
18世紀に入ると、啓蒙思想が広がり「理性」に基づく社会のあり方が問われました。
モンテスキューは『法の精神』で三権分立を説き、ヴォルテールは自由な言論の重要性を強調しました。これらの思想は、王権神授説を背景に生まれた絶対王政を批判するものでもありました。
4. 革命への道
社会契約説や啓蒙思想が王権神授説を乗り越えた結果、18世紀末にはアメリカ独立革命やフランス革命が起こります。
こうして「神から授けられた権力」から「人民の権利に基づく政治」へと大きな転換がなされ、近代政治思想の基盤が固められました。
入試で狙われるポイント
- 王権神授説は絶対王政を正当化する思想として登場したこと
- しかしその存在が、社会契約説や啓蒙思想の発展を促したこと
- ルイ14世・ボシュエとロック・ルソーの対比は頻出であること
- 近代政治思想の流れは「王権神授説 → 批判 → 社会契約説 → 啓蒙思想 → 革命」
- 王権神授説が近代政治思想の発展に果たした役割を200字程度で説明せよ。
-
王権神授説は絶対王政を正当化する理論として広まったが、その存在は批判の対象となり、社会契約説や啓蒙思想の発展を促した。ロックやルソーは権力の根拠を人民の合意に求め、抵抗権や人民主権を強調した。こうした思想はアメリカ独立革命やフランス革命に影響を与え、近代立憲主義・民主主義の基盤を形成する契機となった。
第4章: 王権神授説 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10問)
問1
王権神授説を唱えたフランスの聖職者は誰か。
解答:ボシュエ
問2
ルイ14世の治世を支えた王権神授説の理論的根拠は何か。
解答:『政治論』
問3
王権神授説に対して人民の合意を重視する理論は何か。
解答:社会契約説
問4
社会契約説を展開したイギリスの思想家は誰か。
解答:ロック
問5
ロックの『統治二論』が理論的基盤を与えた政治体制は何か。
解答:名誉革命後の立憲政治
問6
フランスのルソーが主張した原理は何か。
解答:人民主権
問7
ルソーの思想が大きな影響を与えた革命は何か。
解答:フランス革命
問8
啓蒙思想の代表的著作『法の精神』の著者は誰か。
解答:モンテスキュー
問9
ヴォルテールが重視した政治・社会的価値は何か。
解答:言論・信教の自由
問10
王権神授説から社会契約説への移行がもたらした歴史的帰結は何か。
解答:近代立憲主義・民主主義の成立
正誤問題(5問)
問11
ボシュエは『社会契約論』で人民主権を説いた。
解答:誤(ボシュエは『政治論』で王権神授説を説いた。人民主権はルソー)
問12
ロックは『統治二論』で抵抗権を主張した。
解答:正
問13
啓蒙思想は王権神授説を支持する思想として広まった。
解答:誤(王権神授説を批判し、理性に基づく政治を唱えた)
問14
ルソーの一般意思の思想はフランス革命に影響を与えた。
解答:正
問15
王権神授説の存在は逆に社会契約説の発展を促した。
解答:正
まとめ 王権神授説から近代政治思想へ
王権神授説は、近世ヨーロッパの絶対王政を正当化する理論として重要な役割を果たしました。
ボシュエが体系化したこの思想は、ルイ14世のような絶対王の支配を支え、人民に服従を強いる強力な理論的根拠となりました。
しかし同時に、その存在はロックやルソーといった思想家による批判を招き、社会契約説や啓蒙思想の発展を促すことになりました。
近代における政治思想の流れを整理すると、「神に基づく権力」から「人民に基づく権力」への大転換が見えてきます。
これは名誉革命、アメリカ独立革命、フランス革命といった大きな歴史の流れを生み出し、近代的な立憲主義・民主主義の成立につながりました。
受験では、王権神授説そのものの定義やボシュエの思想に加えて、社会契約説との比較やその後の思想史への影響が問われやすいです。
用語暗記にとどまらず、「思想史の流れ」として整理しておくことが高得点につながります。
年表で整理しよう:王権神授説と近代思想の展開
年代 | 出来事・著作 | 内容・意義 |
---|---|---|
1627〜1704 | ボシュエ | 『政治論』で王権神授説を体系化 |
1632〜1704 | ロック | 『統治二論』で社会契約説・抵抗権を主張(名誉革命を理論化) |
1688 | 名誉革命(イギリス) | 立憲君主制の確立、王権神授説の否定 |
1712〜1778 | ルソー | 『社会契約論』で人民主権を主張 |
1748 | モンテスキュー『法の精神』 | 三権分立を説く、啓蒙思想の発展 |
1776 | アメリカ独立宣言 | ロック的自然権思想の影響 |
1789 | フランス革命 | ルソー的人民主権の実現 |
フローチャートで整理しよう:王権神授説から近代思想へ
中世の王権と教皇権の対立
↓
絶対王政の成立
↓
王権神授説(ボシュエ)
└ 「王は神の代理人、服従は義務」
↓
批判の展開
├ ロック → 抵抗権(名誉革命)
└ ルソー → 人民主権(フランス革命)
↓
啓蒙思想(モンテスキュー・ヴォルテール)
↓
近代政治思想へ
└ 立憲主義・民主主義の成立
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