15世紀後半から17世紀にかけて、ヨーロッパの人々は未知の大洋へと船を進めました。
新しい航路を求め、見知らぬ大陸にたどり着き、アジア・アフリカ・アメリカをつなぐ大規模な交易ネットワークを築き上げます。
これが、世界史で重要なテーマである大航海時代です。
しかし、大航海時代を「探検家が新大陸を発見した時代」とだけ捉えると、本質を見誤ります。
この時代の最大の意義は、ヨーロッパとアジア・アフリカ・アメリカが初めてひとつの経済・文化圏として結ばれたこと、すなわち「世界の一体化」が始まったことにあります。
大学受験では、一問一答レベルの探検家暗記に加えて、
- 新航路開拓が世界経済や社会に与えた影響
- コロンブス交換や三角貿易などの具体例
- 日本やアジアとのつながり
まで問われるケースが増えています。
ここからは、まず大航海時代とは何だったのかを理解し、その意義をストーリーとして整理していきましょう。
第1章 大航海時代とは何か
「大航海時代」という言葉は知っていても、それがなぜ世界史上で重要なのか、すぐに答えられる受験生は多くありません。
1492年のコロンブスによる新大陸到達や、ヴァスコ=ダ=ガマのインド航路開拓など、年号暗記にとどまりがちな分野ですが、本当に問われるのは「その航海が世界にどんな影響を与えたのか」という視点です。
大航海時代は、15世紀末から17世紀初頭にかけて、ヨーロッパ諸国が大西洋へと進出し、アジア・アフリカ・アメリカと直接結びつく新たな航路を開拓した時代を指します。
この一連の出来事は、世界史の流れを大きく変えた転換点でした。
1.1 大航海時代の定義と位置づけ
15世紀以前の世界は、地域ごとに独立した経済圏を形成していました。
例えば、
- 地中海世界:ヴェネツィアやジェノヴァを中心とする東方貿易
- インド洋世界:イスラーム商人を軸にした香辛料交易
- アメリカ大陸:アステカ・インカ帝国などの先住民社会
こうした複数の地域圏は互いに接点はあったものの、直接的なつながりは限定的でした。
しかし、15世紀末からヨーロッパ諸国が新航路開拓を進めたことで、これらの地域が初めてひとつの世界経済ネットワークに統合されます。
この変化を歴史学では「世界の一体化」と呼びます。
1.2 大航海時代を動かしたヨーロッパ諸国
大航海時代をリードしたのは、ポルトガルとスペインでした。
さらに、16世紀後半からはオランダ・イギリス・フランスが参入し、香辛料・銀・砂糖・奴隷をめぐる熾烈な競争が始まります。これが後に植民地帝国競争へとつながっていきます。
1.3 世界史上の意義
大航海時代は、世界を初めてひとつに結びつけた時代です。
以下の3点は大学受験でも頻出テーマなので、押さえておきましょう。
- 世界経済の誕生
- アメリカ銀がヨーロッパ・アジアを循環
- 香辛料・絹・陶磁器・砂糖などが世界規模で取引
- 文化・生態系の変容
- コロンブス交換により作物・家畜・病原体が大移動
- 食文化や人口分布、生活様式が大きく変化
- 植民地支配の始まり
- ヨーロッパ中心の国際秩序形成
- アジア・アフリカ・アメリカは原料供給地として組み込まれる
このように、大航海時代は現代につながる「グローバル化の原点」として位置づけられるべきテーマです。
1.4 まとめ:まずは全体像を掴もう
- 大航海時代は、15世紀末から17世紀にかけてヨーロッパ諸国が新航路を開拓した時代
- 世界は初めてひとつの経済・文化圏として統合され、「世界の一体化」が進展
- 大学受験では、探検家や航路の暗記にとどまらず、世界規模の変化を説明できるかが重要
次章では、この大航海時代がなぜ15世紀末に始まったのか、
その背景を「経済・宗教・技術・国家競争」の4つの視点から詳しく解説します。
第2章 大航海時代の背景
大航海時代は偶然に始まったわけではありません。
15世紀後半という時代は、いくつもの要因が重なり合い、「新しい航路を開拓せざるを得ない状況」が生まれていました。
ここでは、受験でも頻出する4つの背景要因――経済・宗教・技術・国家間競争――をストーリーで整理します。
2.1 経済的要因 ― 香辛料とアジア市場への欲望
15世紀のヨーロッパでは、アジア産の香辛料(胡椒・クローブ・ナツメグなど)が非常に高価でした。
肉料理中心の食生活だった当時、香辛料は食材保存や調味料として必須であり、王侯貴族や都市商人層にとって欠かせないものでした。
しかし、アジア産香辛料をヨーロッパに届けるルートは限られていました。
東南アジア → インド洋 → 紅海やペルシャ湾 → 地中海 → ヨーロッパ
という経路を、イスラーム商人とヴェネツィア商人がほぼ独占していたのです。
さらに、1453年にオスマン帝国がコンスタンティノープルを征服すると、東方貿易路が大きく制限され、香辛料はさらに高騰しました。
2.2 宗教的要因 ― レコンキスタの完成と布教熱
経済的動機に加えて、宗教的情熱も大航海時代を後押ししました。
レコンキスタの勝利がもたらした自信
- イベリア半島では、キリスト教勢力がイスラーム勢力を駆逐するレコンキスタ(国土回復運動)が約800年にわたり続いていました。
- 1492年、スペインがグラナダを攻略しレコンキスタを完了。
- この勝利は「次は異教徒の地でキリスト教を広めよう」という意識を高めます。
キリスト教布教の使命感
- スペイン・ポルトガルは「未開の地にキリスト教を広めること」を国家的使命として掲げました。
- 新航路開拓とキリスト教布教は一体化して進められ、イエズス会宣教師の活動につながっていきます。
- 例えば、フランシスコ・ザビエルは1549年に日本へ来航し、西洋と東アジアを結ぶ布教活動を行いました。
2.3 技術的要因 ― 航海術と造船技術の革新
遠洋航海が現実のものとなった背景には、技術革新の存在がありました。
15世紀までの船は外洋を渡るには不十分でしたが、次々と新しい技術が導入されます。
技術 | 特徴 | 航海への影響 |
---|---|---|
カラベル船 | 三角帆と四角帆を併用できる小型高速船 | 逆風でも効率的に進むことが可能に |
羅針盤 | 方角を正確に把握 | 大西洋航海の必需品 |
アストロラーベ | 太陽や星の高度から緯度を測定 | 現在地把握の精度向上 |
改良地図 | トレミー地図の更新、世界像の拡大 | 航路開拓の戦略立案に活用 |
さらに、ポルトガルのエンリケ航海王子は航海学校を設立し、航海術・造船・地図製作の知識を体系化しました。
これが後のディアスやヴァスコ=ダ=ガマら探検家の偉業を支える基盤となります。
2.4 国家間競争 ― 海上覇権をめぐる動き
15世紀後半のヨーロッパは、国民国家の形成期にあり、国家間競争が激しさを増していました。
ポルトガルとスペインの先行
- ポルトガルはアフリカ西岸を南下し、インド洋への航路を模索。
- スペインは西回りでアジアを目指し、結果的にコロンブスの新大陸到達につながります。
トルデシリャス条約(1494年)
- 新大陸発見後、ポルトガルとスペインの対立が激化。
- 教皇アレクサンデル6世の仲介で、大西洋を境に東をポルトガル、西をスペインの勢力圏とする条約が締結されました。
- これにより、ブラジルがポルトガル領となるなど、後世に大きな影響を残します。
新興国の参入
- 16世紀後半からはイギリス・フランス・オランダが本格的に参入。
- 東インド会社の設立や香辛料貿易への参入により、海上覇権争いは激化していきます。
2.5 まとめ:大航海時代は「必然」だった
- 経済:オスマン帝国による東方貿易路制限 → 香辛料を求めて新航路開拓へ
- 宗教:レコンキスタ勝利後の布教熱 → 宣教師活動と航海の一体化
- 技術:羅針盤・カラベル船などの革新 → 長距離航海を可能に
- 国家競争:ポルトガル・スペインを軸とした海上覇権争い → 大航海時代を加速
つまり、大航海時代は偶発的な出来事ではなく、15世紀のヨーロッパが必然的に選んだ歴史的展開だったといえます。
2.6 論述問題例
第3章航 路開拓と探検家たち
大航海時代を象徴するのは、世界各地へ挑んだ探検家たちの航海です。
彼らの目的は単なる冒険ではなく、国家の富と名誉、宗教的使命、そして個人の栄光をかけた挑戦でした。その結果、新しい航路が次々と開拓され、世界は初めてひとつのネットワークに結びついていきます。
ここでは、代表的な探検家たちの航海と成果をストーリーで追っていきましょう。
3.1 ポルトガルの先駆者たち ― インドへの道を切り開く
エンリケ航海王子 ― 大航海時代の開幕者
15世紀初頭、ポルトガル王子エンリケ(航海王子)は、アフリカ西岸の探検を国家事業として推進しました。彼は航海学校を設立し、天文学・地図製作・造船技術を体系化。
これにより、後の探検家たちが外洋航海を安全に行うための基盤を築きます。
バルトロメウ=ディアス ― 喜望峰到達(1488年)
1488年、ディアスはアフリカ大陸南端に到達し、そこを「喜望峰」と名付けました。
これは「インドへ海路で到達できる可能性」を示した、歴史的な快挙です。ただし、嵐と物資不足により、ディアスは引き返さざるを得ませんでした。
ヴァスコ=ダ=ガマ ― インド航路の開拓(1498年)
1498年、ヴァスコ=ダ=ガマは喜望峰を回り、ついにインド西岸のカリカット(現コーリコード)に到達します。
これによりポルトガルは、イスラーム商人を経由せずに香辛料を直接輸入できるようになり、香辛料貿易を独占して急速に国力を高めました。
3.2 スペインの挑戦者たち ― 新大陸と世界周航
コロンブス ― 新大陸到達(1492年)
ジェノヴァ出身の航海者コロンブスは、スペイン女王イサベルの支援を受け、大西洋を西へ進みました。
目的は「西回りでアジアへ到達すること」でしたが、実際に到達したのはバハマ諸島。
コロンブスはアジアに着いたと信じ続けましたが、この航海をきっかけにヨーロッパとアメリカ大陸の接触が始まります。
マゼラン ― 世界周航の偉業(1519〜1522年)
1519年、ポルトガル出身でスペインに仕えたマゼランは、南米南端のマゼラン海峡を通過し、太平洋を横断しました。
マゼラン自身は航海途中でフィリピンで戦死しますが、一行は1522年にスペインへ帰還し、人類初の世界周航を成し遂げます。
3.3 新大陸の征服者たち ― 黄金郷を求めて
コルテス ― アステカ帝国の滅亡(1521年)
1519年、エルナン・コルテスは現在のメキシコに上陸し、強大なアステカ帝国をわずかな兵力で征服しました。
勝利の要因は、
- 火器や馬を駆使した軍事力
- 先住民間の対立を利用した同盟戦略
- 天然痘の流行による人口減少
など、複数の要素が絡み合っています。
ピサロ ― インカ帝国の崩壊(1533年)
フランシスコ・ピサロは、アンデス山脈に栄えたインカ帝国を征服。
ここで得られたポトシ銀山は、スペインに莫大な富をもたらし、ヨーロッパ経済の変革を引き起こしました。
3.4 イギリス・オランダ・フランスの参入
16世紀後半になると、ポルトガル・スペインの独占は崩れ、新興国が台頭します。
- イギリス
- 東インド会社(1600年)を設立し、インド貿易に参入
- ドレークは世界周航に成功し、スペイン無敵艦隊を破る活躍も
- オランダ
- 東インド会社(VOC、1602年)を設立
- モルッカ諸島を掌握し、香辛料貿易をほぼ独占
- フランス
- カナダやインドに植民地を拡大し、イギリスと競合
3.5 まとめ:探検家たちが開いた世界
- ディアス → ヴァスコ=ダ=ガマ → 香辛料貿易独占
- コロンブス → 新大陸到達 → アメリカ征服競争
- マゼラン → 世界周航 → 地球球体説の実証
- コルテス・ピサロ → 先住民帝国の滅亡 → アメリカ銀の大量流入
探検家たちの航海は、単なる冒険ではなく、世界経済・政治・文化の再編をもたらした歴史的転換点でした。
3.6 論述問題例
第4章 新航路開拓の影響
15世紀末から始まった大航海時代は、単なる航海史ではありません。新航路開拓は、世界規模の交易ネットワークを生み出し、経済・文化・社会・国際秩序に大きな変革をもたらしました。
大学入試でも「世界の一体化」や「グローバル経済誕生」の観点から頻出するため、ストーリーで整理していきましょう。
4.1 商業革命 ― ヨーロッパ経済の構造変化
大航海時代は、商業革命(Commercial Revolution)を引き起こしました。
それまでのヨーロッパ経済は、ヴェネツィアやジェノヴァを中心とした地中海貿易に依存していましたが、新航路開拓によって貿易の重心は大西洋沿岸都市へと移っていきます。
4.1.1 アメリカ銀の大量流入
- スペインはアステカ・インカ帝国を征服し、ポトシ銀山など南米の巨大鉱山を支配。
- 16世紀後半には、ヨーロッパで流通する銀の約3分の2がアメリカ産に。
- この銀はマニラを経由して中国に流入し、明の一条鞭法(銀納税制)を支えました。
4.1.2 商業資本主義の発展
- アメリカ銀とアジア香辛料を扱うことで商人層は莫大な富を得ました。
- 長距離貿易のリスクを投資家で分担する仕組みとして、東インド会社(イギリス1600年・オランダ1602年)が設立されます。
- これが株式会社の原型となり、近代資本主義の萌芽につながりました。
4.2 大西洋三角貿易 ― 世界をつないだ物流システム
新航路開拓の影響で、大西洋三角貿易と呼ばれる世界規模の物流ネットワークが形成されます。
4.2.1 三角貿易の仕組み
- ヨーロッパ → アフリカ:銃・布・工業製品を輸出
- アフリカ → アメリカ:黒人奴隷を移送(中間航路)
- アメリカ → ヨーロッパ:砂糖・綿花・コーヒー・タバコを輸出
これにより、ヨーロッパはアフリカとアメリカの資源を効率的に搾取し、富を蓄積します。
4.2.2 奴隷貿易の拡大
- カリブ海やブラジルのサトウキビ・綿花プランテーションでは大量の労働力が必要でした。
- その結果、西アフリカからアメリカへの奴隷移送が大規模化。
- 16〜19世紀の間に、約1,000万人以上のアフリカ人が強制移住させられたと推定されます。
4.3 コロンブス交換 ― 生態系と文化の大転換
大航海時代のもう一つの大きな影響が、コロンブス交換(Columbian Exchange)です。
これは1492年以降、旧大陸(ヨーロッパ・アジア・アフリカ)と新大陸(アメリカ)間で、作物・家畜・病原体などが大規模に移動した現象を指します。
4.3.1 新大陸 → 旧大陸
- ジャガイモ・トウモロコシ・カカオ・タバコ・トマトなどが伝播。
- 特にジャガイモは、ヨーロッパ農村の食糧事情を改善し、人口増加を促進しました。
4.3.2 旧大陸 → 新大陸
- ウマ・ウシ・ヒツジ・コムギ・サトウキビが導入。
- サトウキビはカリブ海やブラジルでのプランテーション農業を拡大させ、奴隷労働を一層強化。
4.3.3 疫病の衝撃
- 天然痘・麻疹・インフルエンザなどの疫病が新大陸に伝わり、免疫を持たない先住民社会は壊滅的被害を受けます。
- アメリカ先住民人口は、1492年以降およそ9割減少したとも推定されます。
4.4 植民地帝国と世界秩序の再編
新航路開拓により、ヨーロッパ諸国は広大な植民地を築き、世界の序列が再編されます。
4.4.1 スペイン・ポルトガルの先行
- スペインはアメリカ大陸を広大に支配し、「太陽の沈まぬ帝国」と呼ばれるまでに。
- ポルトガルはブラジル・インド・東南アジアの交易拠点を抑え、香辛料貿易を独占。
4.4.2 新興国の台頭
- 17世紀にはオランダがバタヴィア(現ジャカルタ)を拠点に香辛料貿易を支配。
- イギリスはインドに勢力を拡大し、後に大英帝国を形成。
- フランスもインドシナや北米に植民地を拡大。
4.5 まとめ:新航路開拓がもたらした世界的変化
- 経済:アメリカ銀流入、商業革命、株式会社誕生
- 社会:奴隷貿易拡大、プランテーション発展
- 文化:コロンブス交換で食文化・生態系・人口が激変
- 政治:ヨーロッパ中心の植民地帝国と世界秩序の成立
大航海時代は「世界の一体化」を加速させ、近代世界システム形成の起点となりました。
4.6 論述問題例
第5章 世界の一体化とグローバル経済の誕生
大航海時代の最大の意義は、世界の一体化を進めたことです。
15世紀までは、世界は地中海・インド洋・東アジア・アメリカなど、地域ごとに独立した経済圏を形成していました。
しかし、新航路開拓により、それらは初めてヨーロッパを中心とする世界規模の経済ネットワークに統合されます。
ここでは、その仕組みと特徴を詳しく見ていきます。
5.1 近代世界システムの成立
歴史学者ウォーラーステインは、16世紀以降の国際関係を「近代世界システム」と呼び、以下の3層構造で説明しました。
地域区分 | 特徴 | 代表例 |
---|---|---|
中核(Core) | 工業製品の輸出・資本の集積・貿易支配 | 西欧諸国(スペイン、ポルトガル、オランダ、イギリス、フランス) |
周辺(Periphery) | 原材料・貴金属・農産物の供給地 | アメリカ大陸(銀・砂糖・綿花) |
半周辺(Semi-periphery) | 中核と周辺をつなぐ中間的存在 | 東欧(穀物輸出)、日本(銀輸出) |
この世界システムでは、ヨーロッパが中心となり、アジア・アフリカ・アメリカを原料供給地として従属させる構造が形成されました。
大学受験では、この「中核・周辺・半周辺」の概念を知っておくと、論述で有利になります。
5.2 アジア世界の組み込み ― 香辛料・絹・陶磁器の流通
大航海時代をきっかけに、アジアの高級品はヨーロッパ市場に大量に流入し、世界貿易の中で重要な役割を果たしました。
5.2.1 インド洋交易圏の再編
- ヴァスコ=ダ=ガマのインド航路開拓以降、ポルトガルはゴア・マラッカ・マカオなどを拠点に香辛料貿易を独占。
- 17世紀にはオランダ東インド会社(VOC)がモルッカ諸島を制圧し、香辛料ルートをほぼ掌握します。
- イギリス東インド会社(1600年設立)も後にインドの綿織物や紅茶貿易で台頭。
5.2.2 中国と銀貿易
- 明朝では一条鞭法(1580年代)により、税を銀で納める制度が導入されました。
- これにより、アメリカのポトシ銀山や日本の石見銀山から産出された銀が、中国へ大量に流入。
- フィリピンのマニラは銀貿易の一大拠点となり、
「ポトシ銀 → マニラ → 中国 → 陶磁器・絹 → ヨーロッパ」
という世界規模の交易ルートが確立しました。
5.2.3 日本の銀と世界経済
- 16世紀後半、日本は石見銀山などから大量の銀を輸出し、世界有数の銀産出国となります。
- 日本銀は東アジア交易を支える資源となり、中国・東南アジア・ヨーロッパを結ぶネットワークに深く組み込まれました。
- 南蛮貿易(ポルトガル船との直接取引)により、日本は鉄砲・絹・香辛料を輸入する一方で、銀を輸出する構造でした。
5.3 アメリカ大陸の組み込み ― 銀と砂糖の帝国
新大陸はヨーロッパの植民地支配を受け、世界経済の「供給地」として組み込まれました。
5.3.1 銀経済の中心としてのアメリカ
- ポトシ銀山(現ボリビア)は世界最大級の銀産出地で、スペインの財政を支える柱となりました。
- この銀はヨーロッパを経由してアジア市場に流入し、世界経済を動かす「潤滑油」となります。
5.3.2 プランテーション農業と奴隷労働
- ブラジルやカリブ海諸島では、サトウキビ・コーヒー・綿花の大規模栽培が行われました。
- 労働力確保のため、西アフリカから大量の奴隷が連行され、過酷な環境で働かされます。
- この構造は大西洋三角貿易を支える原動力となり、ヨーロッパ資本主義の発展に寄与しました。
5.4 ヨーロッパ中心の国際秩序の確立
大航海時代は、ヨーロッパを世界の中心に押し上げる契機となりました。
- 16世紀前半:スペイン・ポルトガルが優位
- 17世紀:オランダが台頭し、アムステルダムが国際金融の中心に
- 18世紀:イギリス・フランスがインド・カリブ海・北米で覇権争い
- 19世紀:イギリスが大英帝国を築き、世界の覇権を確立
この覇権交代の流れを押さえると、植民地史や近代国際関係史の理解がスムーズになります。
5.5 世界の一体化の意義
- 地域ごとに独立していた経済圏が、初めてグローバルなネットワークに統合
- アジアの香辛料・絹・陶磁器、アメリカの銀・砂糖・綿花、アフリカの奴隷が世界を循環
- 現代のグローバル経済の原型が、この時代に誕生したといえます
5.6 論述問題例
第6章 文化交流と文明衝突
大航海時代は、単に航路を開いたり交易品を流通させただけではありません。
それは、人・モノ・思想・宗教が大規模に移動した時代であり、文化交流と文明衝突が同時に進んだ時代でもあります。
ここでは、大航海時代の影響を「コロンブス交換」「キリスト教布教」「文明衝突」の3つの視点から整理します。
6.1 コロンブス交換 ― 生態系と食文化を変えた大移動
大航海時代最大の文化的インパクトの一つが、コロンブス交換(Columbian Exchange)です。
これは、1492年以降、旧大陸(ヨーロッパ・アジア・アフリカ)と新大陸(アメリカ)との間で、作物・家畜・病原体・文化が大規模に移動した現象を指します。
大学入試では頻出テーマなので、具体例で整理しておきましょう。
6.1.1 新大陸 → 旧大陸
- 作物:ジャガイモ・トウモロコシ・トマト・カカオ・タバコなど
- 影響:
- ジャガイモ・トウモロコシ → ヨーロッパ農業の安定化
- トマト → イタリア料理文化の発展
- カカオ → ヨーロッパ嗜好品文化を拡大
6.1.2 旧大陸 → 新大陸
- 家畜・作物:ウマ・ウシ・ヒツジ・ブタ・コムギ・サトウキビなど
- 影響:
- ウマ → アメリカ先住民社会に革命をもたらし、移動・狩猟・戦争の形を一変
- サトウキビ → プランテーション農業の拡大 → 奴隷貿易の急増
6.1.3 疫病の衝撃
- 天然痘・麻疹・インフルエンザなどがヨーロッパから新大陸に流入
- 免疫を持たない先住民社会では壊滅的被害 → アメリカ大陸の人口は約9割減少とも推定される
6.2 キリスト教布教と文化融合
大航海時代は、キリスト教の世界的布教が本格的に始まった時代でもあります。
6.2.1 イエズス会の活動
- 1534年設立のイエズス会は、カトリック改革の一環として世界各地で布教活動を展開。
- フランシスコ・ザビエル(1549年来日)
→ 九州を中心に日本でキリスト教を広めた。 - マテオ=リッチ(16世紀末)
→ 中国で天文学・地理学を伝え、西洋知識を紹介するとともに現地文化に適応する布教を行った。
6.2.2 先住民社会への影響
- 中南米では植民地支配と布教活動が一体化。
- アステカ・インカ帝国の伝統的宗教儀式は禁じられ、多くの神殿が破壊。
- しかし一方で、先住民文化の一部はキリスト教と融合し、独自の混合信仰も生まれました。
6.3 文明衝突と先住民社会の崩壊
大航海時代は文化交流を促進した一方で、文明間の激しい衝突を引き起こしました。
6.3.1 征服と植民地支配
- スペインはコルテスによるアステカ征服(1521年)、ピサロによるインカ征服(1533年)を通じて中南米を支配。
- 火器・馬などの軍事力の差と、先住民内部の対立を利用した戦略が勝敗を決定づけました。
6.3.2 疫病と人口激減
- 征服と並行して天然痘などの疫病が広がり、先住民社会は壊滅的打撃。
- 労働力不足を補うために西アフリカから大量の奴隷が移送され、大西洋奴隷貿易が拡大。
6.3.3 混血社会の形成
- ヨーロッパ人・先住民・アフリカ人の混血が進み、
- メスティーソ(欧州+先住民)
- ムラート(欧州+アフリカ系)
など多様な社会階層が誕生。
- この階層構造は、中南米社会の不平等の根源となりました。
6.4 思想・科学への影響
大航海時代は科学や思想にも大きな変革をもたらしました。
- 地理的知識の拡大
→ 世界地図が大きく書き換えられ、「地球は広い」という認識が広まる - 科学革命の基盤
→ 航海術・天文学・地図学の進歩は、地動説や近代科学の発展を促した - 多様な文化との接触
→ ヨーロッパ中心主義を揺さぶり、人間観・世界観の再構築を促す
6.5 まとめ
- コロンブス交換:作物・家畜・病原体の大移動が生態系と人口構造を激変させた
- キリスト教布教:アジア・アメリカで文化融合と伝統破壊の両面をもたらした
- 文明衝突:先住民社会は疫病と植民地支配で崩壊、混血社会が形成された
- 思想革新:科学革命や新たな世界観の誕生につながった
大航海時代は、経済的グローバル化とともに、文化・人口・思想の地殻変動を引き起こした時代だったのです。
6.6 論述問題例
第7章 世界史における位置づけ
大航海時代は、単なる航路開拓の時代ではありません。
15世紀末から17世紀初頭にかけて、ヨーロッパ諸国は新航路開拓を通じて世界規模の交易ネットワークを形成し、初めて「世界の一体化」が進みました。
この流れは、現代に続く国際秩序と経済格差の起点となるため、世界史全体の中で極めて重要なテーマです。
7.1 近代世界システムの出発点
16世紀以降の世界は、ヨーロッパを中心とした「近代世界システム」へと大きく変貌します。
7.1.1 ヨーロッパの台頭
- 大航海時代を通じて、ヨーロッパ諸国はアジア・アフリカ・アメリカを結ぶ交易ネットワークを構築。
- アメリカ銀・アジア香辛料・砂糖・綿花などの資源を独占的に取り扱い、世界経済の中核に位置するようになります。
- ポルトガル・スペインから始まり、オランダ・イギリス・フランスへと覇権が移行しました。
7.1.2 中核・周辺・半周辺の分化
ウォーラーステインの「近代世界システム論」では、16世紀以降の世界を3つに区分します。
地域区分 | 役割 | 代表例 |
---|---|---|
中核(Core) | 工業製品輸出・資本の蓄積 | 西ヨーロッパ諸国 |
周辺(Periphery) | 原料・貴金属・奴隷の供給 | アメリカ・アフリカ |
半周辺(Semi-periphery) | 中核と周辺をつなぐ中間的存在 | 日本(銀)、東欧(穀物輸出) |
この枠組みを理解すると、大航海時代が近代的な国際分業体制をつくったことがわかります。
7.2 アジア世界への影響
大航海時代はアジアの経済・社会にも大きな変化をもたらしました。
7.2.1 中国 ― 銀経済の確立
- 明では一条鞭法の導入により、税を銀で納める制度が整備。
- アメリカのポトシ銀や日本銀は、フィリピンのマニラを経由して中国へ大量流入。
- 中国は世界最大の銀需要国となり、アジアとヨーロッパを結ぶ経済の中心に位置しました。
7.2.2 インド洋交易の再編
- ポルトガルはゴア・マラッカ・マカオを拠点に香辛料貿易を独占。
- 17世紀にはオランダ東インド会社(VOC)がモルッカ諸島を制圧。
- イギリス東インド会社(1600年設立)は後にインド貿易を拡大し、綿織物・紅茶をヨーロッパ市場に供給しました。
7.2.3 日本 ― 世界経済への参加
- 16世紀半ば、日本は石見銀山などから大量の銀を産出。
- この銀は中国や東南アジアで取引され、世界経済に組み込まれました。
- 南蛮貿易では、ポルトガル船を通じて鉄砲・絹・香辛料を輸入し、日本も大航海時代のネットワークに加わります。
7.3 アメリカ・アフリカへの影響
7.3.1 アメリカ大陸
- スペイン・ポルトガルによる征服で、アステカ・インカ帝国は滅亡。
- 銀山開発とプランテーション農業により、アメリカはヨーロッパ経済の原料供給地となります。
- 先住民人口は疫病と過酷な労働で激減し、社会構造は大きく変わりました。
7.3.2 アフリカ
- 大西洋三角貿易の一環として、西アフリカから約1,000万人以上の黒人奴隷がアメリカ大陸へ強制移送。
- 労働力の喪失はアフリカ社会の人口バランスを崩し、政治的・社会的混乱を引き起こしました。
7.4 日本史との接点
大航海時代は世界史だけでなく、日本史とも強く関連します。
- 1543年:ポルトガル人が種子島に漂着 → 鉄砲伝来
- 1549年:フランシスコ・ザビエル来航 → キリスト教布教開始
- 1587年:豊臣秀吉が伴天連追放令を発布 → 布教と植民地支配を警戒
- 17世紀前半:徳川幕府が鎖国政策を進め、ヨーロッパとの接触を限定
大学入試では、世界史と日本史の接点を意識した出題が増えているため、セットで理解することが有効です。
7.5 大航海時代の世界史的意義
- 世界経済の統合
→ ヨーロッパを中心にアジア・アフリカ・アメリカが一つのネットワークに統合 - ヨーロッパ中心世界秩序の形成
→ 植民地支配と資本蓄積により、西欧諸国が優位に立つ - グローバル化の原点
→ 交易・文化・疫病・人口移動など、現代的なグローバル化の萌芽 - 格差の固定化
→ 周辺(アメリカ・アフリカ)と中核(ヨーロッパ)の経済格差が生まれた
7.6 論述問題例
7.7 まとめ
- 大航海時代は「近代世界システム」の始まりである
- ヨーロッパを中心に世界経済が一体化し、アジア・アフリカ・アメリカが組み込まれた
- 中国の銀経済、日本の南蛮貿易など、非ヨーロッパ世界も深く関与
- 植民地支配と資源搾取は現代の経済格差の源流でもある
第8章 大学受験における大航海時代攻略法
大航海時代は大学入試世界史の頻出テーマです。
一問一答レベルの知識だけでなく、世界の一体化や近代世界システムの形成まで論理的に説明できるかが合否を分けます。
ここでは、短答から論述までカバーする効率的な学習法をまとめます。
8.1 出題傾向の全体像
出題形式 | 主なテーマ | 難易度 | 出題頻度 |
---|---|---|---|
用語問題 | 探検家・航路・条約(例:トルデシリャス条約) | 易〜標準 | ★★★★☆ |
正誤問題 | コロンブス交換・三角貿易・銀流通など | 標準 | ★★★★☆ |
資料問題 | 航路図・人口グラフ・交易品マップなど | 標準〜難 | ★★★☆☆ |
論述問題 | 世界の一体化・グローバル経済・文明衝突 | 難 | ★★★★★ |
傾向まとめ
- MARCH・関関同立レベル:探検家・航路・条約中心
- 早慶・旧帝大レベル:銀流通・コロンブス交換・世界システム論を絡めた論述が頻出
8.2 必須用語まとめ
(1) 探検家・航路
探検家 | 国 | 業績 | 出題頻度 |
---|---|---|---|
エンリケ航海王子 | ポルトガル | 航海学校を設立しアフリカ探検を推進 | ★★★ |
ディアス | ポルトガル | 喜望峰到達(1488) | ★★★★ |
ヴァスコ=ダ=ガマ | ポルトガル | インド航路開拓(1498) | ★★★★★ |
コロンブス | スペイン | 新大陸到達(1492) | ★★★★★ |
マゼラン | スペイン | 世界周航達成(1522) | ★★★★ |
コルテス | スペイン | アステカ征服(1521) | ★★★★ |
ピサロ | スペイン | インカ征服(1533) | ★★★★ |
(2) 条約・会社・拠点
用語 | 内容 | ポイント |
---|---|---|
トルデシリャス条約(1494) | ポルトガル・スペインが新大陸を分割 | ブラジルがポルトガル領となる |
東インド会社 | イギリス(1600)・オランダ(1602) | 株式会社の原型 |
マニラ | アメリカ銀が中国へ流入する拠点 | 「銀の大動脈」を象徴 |
(3) 経済・社会・文化
用語 | 意味・ポイント |
---|---|
大西洋三角貿易 | ヨーロッパ→アフリカ→アメリカ→ヨーロッパを結ぶ交易 |
コロンブス交換 | 新大陸と旧大陸間の作物・家畜・病原体の大移動 |
ポトシ銀山 | スペイン財政を支えた巨大銀山、世界経済を動かす原動力 |
一条鞭法 | 明で導入された銀納税制、世界的銀流通と直結 |
8.3 頻出テーマ攻略法
(1) 世界の一体化
- アメリカ銀 → マニラ → 中国 → ヨーロッパ
- 香辛料・陶磁器・絹 → アジアからヨーロッパへ
- 奴隷・砂糖・綿花 → アメリカから世界各地へ
→ 近代世界システム形成の起点
(2) コロンブス交換
- 新大陸 → 旧大陸:ジャガイモ・トウモロコシ・トマト・カカオ
- 旧大陸 → 新大陸:ウマ・サトウキビ・コムギ・天然痘
- → 生態系・食文化・人口構造の変化がテーマ
(3) 銀流通とグローバル経済
- ポトシ銀山・石見銀山から産出された銀がアジア市場へ流入
- 明の一条鞭法と直結し、ヨーロッパ・アジア・アメリカをつなぐ
- → **「銀の大動脈」**を意識すると論述で差がつきます
8.4 論述対策:3つの型で覚える
型①:世界の一体化(200字)
- ポイント:銀・香辛料・奴隷・プランテーションを必ず盛り込む
- 例:「ポトシ銀がマニラを経由して中国に流入」「大西洋三角貿易で奴隷・砂糖が循環」
型②:文明衝突(200字)
- ポイント:先住民社会・疫病・混血社会を絡める
- 例:「天然痘で先住民人口が激減」「アステカ・インカ滅亡」「メスティーソ・ムラート誕生」
型③:コロンブス交換(150字)
- ポイント:作物・家畜・病原体を必ず具体例で書く
- 例:「ジャガイモ・トウモロコシ・天然痘・サトウキビ」などを最低2例ずつ挙げる
8.5 効率的な学習法
- 航路と交易ルートを図で押さえる
→ 探検家と航路を一度に覚える - 探検家・年号・場所をストーリーで整理
→ 「ディアス→ヴァスコ=ダ=ガマ→コロンブス→マゼラン」の流れを意識 - 論述過去問でアウトプット
→ 「世界の一体化」「コロンブス交換」「銀経済」は最重要テーマ
8.6 まとめ
- 大航海時代は世界の一体化と近代世界システム形成の出発点
- 一問一答では探検家・航路・交易品・条約を押さえる
- 論述では「経済・社会・文化・国際秩序」をつなげて説明することが重要
- 銀流通・大西洋三角貿易・コロンブス交換は、具体例で書けるように準備
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