中世ヨーロッパは「信仰の時代」と呼ばれる一方で、「理性」の力を重視する新しい潮流も生まれました。その中心となったのがスコラ哲学です。
11世紀から14世紀にかけて、大学の成立とともに発展したこの思想は、「信仰」と「理性」をどう統合するかをテーマとし、やがて近代思想や科学革命にも大きな影響を与えます。
大学受験の世界史では、
- トマス・アクィナス
- アベラール
- オッカム
といった思想家と、その主張の違いが頻出です。また、「中世思想の変遷」として、神学から経験論へのシフトもよく問われます。
この記事では、中世思想とスコラ哲学の全体像を体系的に整理し、論述問題や正誤問題で差がつくポイントを徹底解説します。
第1章 中世ヨーロッパ思想の特徴とスコラ哲学の誕生
中世ヨーロッパは、キリスト教会が社会・政治・文化を支配した時代でした。思想や学問の中心は神学であり、聖書解釈が最も重要視されていました。
しかし11世紀以降、イスラーム世界からギリシア哲学が逆輸入されると、「信仰」と「理性」をどう調和させるかという課題が生まれます。この問題に挑んだのが、後に「スコラ哲学」と呼ばれる学問体系でした。
1-1. 中世思想の特徴
- 神中心の世界観
中世ヨーロッパ社会では、現世はあくまで「来世」への準備期間とされ、救済が思想の根本的目標でした。 - 教会と神学の支配
学問はすべて教会の許可を受けて行われ、神学が最も高貴な学問とされていました。 - 古代哲学の再発見
11〜12世紀、十字軍遠征を契機として、アリストテレス哲学がイスラーム世界を経由してヨーロッパに再導入されます。これにより、「理性」による世界解明の可能性が広がりました。
1-2. スコラ哲学とは何か
スコラ哲学とは、中世ヨーロッパの大学を中心に発展した、神学と哲学を統合しようとする学問体系です。
名前の由来は、ラテン語の schola(学校) で、大学における討論形式の授業「クエスティオ(問題提出・討論)」が中心でした。
スコラ哲学の特徴は以下の3つです。
- 信仰と理性の調和を目指す
神学的教義を理性で論証しようとする試み。 - アリストテレス哲学の受容
特にトマス・アクィナスらはアリストテレス哲学を積極的に取り入れました。 - 大学の成立と発展
パリ大学やボローニャ大学など、大学制度の発展がスコラ哲学を支えました。
1-3. 主なスコラ哲学者と思想の変遷
(1) 初期スコラ哲学:アベラール
- 人物:ピエール・アベラール(1079〜1142)
- 主張:理性を重視し、神学と論理学を結びつけた。著書『是と否』で信仰の教義を論理的に検証。
- 評価:信仰を相対化したため、当時は異端視されることもあった。
(2) 盛期スコラ哲学:トマス・アクィナス
- 人物:トマス・アクィナス(1225〜1274)
- 主張:「信仰と理性の調和」を最終形にまとめた。著書『神学大全』で神の存在を五つの方法で論証。
- 評価:カトリック教会の正統神学者として後世に絶大な影響。
(3) 後期スコラ哲学:オッカム
- 人物:ウィリアム・オッカム(1287〜1347)
- 主張:経験を重視する唯名論を展開。「オッカムの剃刀」に象徴される簡潔な理論を提唱。
- 評価:近代科学的思考の萌芽を作った。
1-4. 入試で狙われるポイント(h3)
- アベラールの『是と否』:理性と信仰の調和の試み
- トマス・アクィナスの『神学大全』と五つの方法
- オッカムの唯名論と「オッカムの剃刀」
- 大学制度の成立とスコラ哲学の関係
- アリストテレス哲学の再発見とイスラーム世界の役割
- 中世ヨーロッパにおけるスコラ哲学の発展と、その思想史上の意義を述べよ。(約250字)
-
11〜14世紀の中世ヨーロッパでは、大学の成立とともにスコラ哲学が発展した。初期にはアベラールが論理学を神学に応用し、信仰と理性の調和を模索した。盛期にはトマス・アクィナスがアリストテレス哲学を取り入れ、『神学大全』で神の存在を論証し、信仰と理性を統合した体系を完成させた。後期にはオッカムが唯名論を提唱し、経験重視の思考が近代科学への道を開いた。スコラ哲学は、信仰と理性の関係を探究する中で、近代思想の萌芽を育んだ点で重要である。
第1章:中世思想とスコラ哲学 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10問)
問1
商業資本主義とは、主にどのような活動を通じて利潤を追求する経済体制か。
解答:商業活動(貿易・投資・金融)
問2
商業資本主義の中心となった主体は誰か。
解答:商人・金融業者・貿易商人
問3
商業資本主義と産業資本主義の違いを簡潔に述べよ。
解答:商業資本主義は商業活動から利潤を得るのに対し、産業資本主義は生産活動から利潤を得る。
問4
中世ヨーロッパで生産や販売を統制していた組織を何というか。
解答:ギルド
問5
商業資本主義が発展する契機となった、15世紀末から始まる大規模な航海活動を何というか。
解答:大航海時代
問6
16世紀以降、遠隔地貿易の拡大によって大きく発展した商業都市を1つ挙げよ。
解答:アントワープ(またはアムステルダム、ロンドンでも可)
問7
ヨーロッパに大量の銀が流入した原因となった、現在のボリビアにある大銀山はどこか。
解答:ポトシ銀山
問8
大航海時代の進展で、ヨーロッパ経済の中心は地中海世界からどこへ移動したか。
解答:大西洋世界
問9
商業資本主義の発展に伴い、国家や商人が海外進出を強化する中で設立された貿易会社を何というか。
解答:東インド会社
問10
遠隔地貿易により台頭した資本家階級は、後に何と呼ばれるか。
解答:ブルジョワジー(市民階級)
正誤問題(5題)
問11
商業資本主義は、生産活動を通じて利潤を得ることを目的とする経済体制である。
解答:誤(商業活動を通じて利潤を得る)
問12
16世紀以降、商業資本主義の発展に伴い、ヨーロッパ経済の中心は次第に大西洋沿岸へ移っていった。
解答:正
問13
商業資本主義は、封建社会の安定を強化し、農奴制をより固定化した。
解答:誤(商業資本主義は貨幣経済を拡大させ、農奴制の衰退を促した)
問14
遠隔地貿易の拡大は、商業資本家の台頭と金融市場の発展を促した。
解答:正
問15
商業資本主義の発展により、アジア・アフリカ・アメリカを結ぶ世界規模の交易ネットワークが形成された。
解答:正
第2章 主要なスコラ哲学者とその思想体系
スコラ哲学は「信仰と理性の調和」を軸に展開しましたが、その過程では多くの思想家たちが独自の立場から神学と哲学の関係を探究しました。
ここでは、アベラール → トマス・アクィナス → オッカムを中心に、それぞれの主張と思想史上の意義を整理します。大学受験では思想家ごとの立場を正しく区別できるかが重要です。
2-1. アベラール:理性による信仰の検証
(1) 人物と背景
- 生没年:1079〜1142
- 活動拠点:パリ大学神学部
- 著作:『是と否』
(2) 思想の特徴
- キリスト教の教義を論理的に分析し、対立する聖書解釈を比較する手法を導入。
- 「信じるために理解する」という立場をとり、理性を積極的に用いることで神学を深化させた。
(3) 評価
- 信仰を相対化したため当時は異端視されることもあったが、スコラ哲学の初期的段階を切り開いた思想家として重要。
2-2. トマス・アクィナス:スコラ哲学の完成者
(1) 人物と背景
- 生没年:1225〜1274
- 所属:ドミニコ会修道士
- 著作:『神学大全』
(2) 思想の特徴
- 信仰と理性の調和を体系化し、スコラ哲学を完成。
- アリストテレス哲学の受容により、神学を論理的に構築。
- 「五つの方法」:神の存在を論証するための5つの理論を提示。
- 運動因
- 原因因
- 必然性と可能性
- 完全性の度合い
- 目的論的証明
(3) 評価
- トマスはカトリック正統神学の象徴であり、「スコラ哲学の完成者」と呼ばれる。
2-3. オッカム:唯名論と近代科学の萌芽
(1) 人物と背景
- 生没年:1287〜1347
- 所属:フランチェスコ会修道士
- 著作:『箇条書論』『論理学大全』
(2) 思想の特徴
- 普遍概念を否定する唯名論を提唱。
- 「オッカムの剃刀」の原則を提唱し、必要以上に仮定を立てるなという経験主義的立場を確立。
- 神学と哲学を分離し、神の存在は理性ではなく信仰によるしかないと主張。
(3) 評価
- スコラ哲学の終焉を示すと同時に、近代科学的思考への橋渡しをした思想家として重要。
2-4. 入試で狙われるポイント
- アベラール『是と否』と論理的信仰理解
- トマス・アクィナスの『神学大全』と「五つの方法」
- オッカムの唯名論と「オッカムの剃刀」
- アリストテレス哲学を取り入れた背景
- トマスとオッカムの立場の違い(理性重視か、経験重視か)
- トマス・アクィナスとオッカムの思想の違いを中心に、スコラ哲学の展開を説明せよ。(約250字)
-
スコラ哲学は信仰と理性の調和を追求する学問体系である。トマス・アクィナスはアリストテレス哲学を取り入れ、『神学大全』で神の存在を五つの方法により論証し、信仰と理性の統合を完成させた。一方、オッカムは唯名論を唱え、普遍概念の実在を否定し、神の存在は理性では証明できないとした。オッカムは「オッカムの剃刀」に象徴される経験重視の立場をとり、近代科学の萌芽を開いた。こうしてスコラ哲学は、トマスにより完成し、オッカムにより近代思想への転換点を迎えた。
第2章:中世思想とスコラ哲学 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10題)
問1
アベラールの代表作は何か。
解答:『是と否』
問2
トマス・アクィナスはどの修道会に属していたか。
解答:ドミニコ会
問3
『神学大全』では、神の存在を証明するために提示された方法を何と呼ぶか。
解答:五つの方法
問4
オッカムはスコラ哲学の初期に活躍した思想家である。
解答:誤(→ 後期スコラ哲学)
問5
「オッカムの剃刀」はどのような原則を指すか。
解答:仮定は必要最小限にすべきという原則
問6
アベラールは論理学を神学に応用し、信仰の論理的理解を目指した。この立場を何と呼ぶか。
解答:理性重視の立場
問7
トマス・アクィナスはアリストテレス哲学を拒否した。
解答:誤(→ 積極的に受容した)
問8
オッカムが提唱した、普遍概念の実在を否定する思想は何か。
解答:唯名論
問9
アベラールは「信じるために理解する」という立場をとった。
解答:正
問10
トマス・アクィナスは「スコラ哲学の完成者」と呼ばれる。
解答:正
正誤問題(5題)
問11
『是と否』はトマス・アクィナスの著作である。
解答:誤(→ アベラール)
問12
トマス・アクィナスはアリストテレス哲学を取り入れて神学を体系化した。
解答:正
問13
オッカムは普遍概念の実在を認めた。
解答:誤(→ 否定した)
問14
アベラールは論理的分析を神学に応用した。
解答:正
問15
「オッカムの剃刀」とは複雑な理論を重視する立場を示す。
解答:誤(→ 簡潔な理論を優先する立場)
第3章 イスラーム世界と大学制度がもたらしたスコラ哲学の発展
スコラ哲学の発展は、ヨーロッパ内部だけで完結したわけではありません。
実はその背景には、イスラーム世界からのアリストテレス哲学の逆輸入と、大学制度の成立という大きな要素がありました。
この2つの要素を押さえると、なぜ13世紀にスコラ哲学が一気に成熟したのかが理解できます。
3-1. イスラーム世界がもたらしたアリストテレス哲学の再発見
(1) 十字軍遠征と知識交流
11〜13世紀にかけて行われた十字軍遠征は、イスラーム世界との接触を深める契機となりました。
この過程で、イスラーム世界で保存・発展されていたギリシア哲学がヨーロッパに伝わります。
(2) イスラーム哲学者の役割
- アヴィケンナ(イブン・シーナ)
→ 『医学典範』で有名。アリストテレス哲学を神学と融合させた。 - アヴェロエス(イブン・ルシュド)
→ 「アリストテレス注釈者」として知られ、彼の注釈書はヨーロッパで広く読まれた。
(3) アリストテレス哲学の受容
- アリストテレスの論理学・形而上学は、スコラ哲学における神学論証の強力な武器となった。
- トマス・アクィナスはアヴェロエス経由でアリストテレス哲学を吸収し、スコラ哲学を体系化。
3-2. ヨーロッパ大学制度の成立とスコラ哲学
(1) 大学の起源
12世紀以降、ヨーロッパでは高等教育機関としての大学が次々と設立されました。
- ボローニャ大学(1088年頃):法学で有名。
- パリ大学(12世紀):神学・哲学の中心地。
- オックスフォード大学(12世紀):神学・自然哲学で発展。
(2) 「スコラ(schola)」の意味
- ラテン語で「学校」を意味し、大学制度そのものがスコラ哲学の発展の舞台。
- 教授と学生が「クエスティオ(問題提出)」「ディスプタティオ(討論)」を通じて学問を深めた。
(3) 大学とスコラ哲学の関係
- 大学はスコラ哲学者たちが議論を重ねる場であり、理論体系の洗練を促した。
- トマス・アクィナスやアベラールも、大学制度の発展なしには存在し得なかった。
3-3. スコラ哲学を支えた「知のネットワーク」
(1) 修道院から大学へ
- 中世初期は修道院付属学校で神学教育が行われていた。
- 大学が成立すると、神学だけでなく法学・医学・哲学など幅広い学問体系が確立。
(2) 教会・国家・知識人の連携
- 教皇庁が大学の設立を後押し。
- 学問的権威は教会にありつつも、知識人は国王権力にも仕えるようになる。
- この緊張関係が思想の深化を促した。
3-4. 入試で狙われるポイント
- アリストテレス哲学はイスラーム世界経由で逆輸入された
- アヴィケンナとアヴェロエスの役割
- パリ大学・ボローニャ大学・オックスフォード大学の特徴
- 「クエスティオ」「ディスプタティオ」といった大学講義形式
- 修道院付属学校から大学への発展
- イスラーム世界の知識と大学制度の発展がスコラ哲学に与えた影響について説明せよ。
-
11〜13世紀、十字軍遠征を契機にヨーロッパはイスラーム世界と接触し、保存・発展されていたギリシア哲学を逆輸入した。特にアヴィケンナやアヴェロエスの注釈を通じてアリストテレス哲学が広まり、神学論証の重要な基盤となった。また12世紀以降、パリ大学やボローニャ大学などの大学制度が発展し、スコラ哲学者たちは「クエスティオ」と「ディスプタティオ」による討論を重ねた。こうしたイスラーム世界からの知識導入と大学制度の成立が、スコラ哲学を体系化・発展させる決定的要因となった。
第3章:中世思想とスコラ哲学 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10題)
問1
アリストテレス哲学はどの地域を経由してヨーロッパに再導入されたか。
解答:イスラーム世界
問2
「アリストテレス注釈者」と呼ばれたイスラーム哲学者は誰か。
解答:アヴェロエス(イブン・ルシュド)
問3
『医学典範』を著したイスラーム世界の哲学者は誰か。
解答:アヴィケンナ(イブン・シーナ)
問4
神学研究で有名な中世の大学はどこか。
解答:パリ大学
問5
法学研究で知られる中世ヨーロッパの大学はどこか。
解答:ボローニャ大学
問6
大学の講義で行われた問題提起形式の授業をラテン語で何と呼ぶか。
解答:クエスティオ
問7
大学で行われた論理的討論形式の授業をラテン語で何と呼ぶか。
解答:ディスプタティオ
問8
オックスフォード大学が設立されたのはおおよそ何世紀か。
解答:12世紀
問9
アリストテレス哲学の受容はスコラ哲学にどのような影響を与えたか。
解答:神学論証の基盤を強化した
問10
修道院付属学校から大学への発展はスコラ哲学にどのような影響を与えたか。
解答:発展を促進した
正誤問題(5題)
問11
十字軍遠征をきっかけにイスラーム世界からギリシア哲学が伝わった。
解答:正
問12
アヴェロエスは『医学典範』を著した。
解答:誤(→ アヴィケンナが著した)
問13
ボローニャ大学は神学の中心地である。
解答:誤(→ 法学で有名)
問14
「ディスプタティオ」は大学での討論形式の講義を指す。
解答:正
問15
パリ大学は12世紀に成立し、神学教育の中心となった。
解答:正
第4章 スコラ哲学の衰退と近代思想への橋渡し
14世紀以降、スコラ哲学は次第に衰退の道をたどります。その原因は、オッカムの唯名論に象徴される理性中心主義への批判や、宗教改革によるカトリック権威の揺らぎ、さらには自然科学の台頭でした。
しかし、スコラ哲学は単に「終わった学問」ではなく、近代思想や科学革命の出発点として大きな意味を持ちます。
4-1. スコラ哲学衰退の背景
(1) 哲学的要因:唯名論の台頭
- オッカムは普遍概念の実在を否定し、経験に基づく認識を重視。
- これにより、神学中心の論理体系が崩れ、スコラ哲学は次第に解体されていきました。
(2) 社会的要因:宗教改革
- ルターやカルヴァンらによる宗教改革が教会権威を動揺させ、スコラ哲学の根幹である神学体系も見直されることになります。
(3) 科学的要因:自然科学の発展
- コペルニクス、ガリレイ、ケプラーらによる科学革命は、観察・実験に基づく世界理解を重視。
- 神学的な演繹法よりも、実証的な方法論が主流となりました。
4-2. スコラ哲学から近代思想への移行
(1) 経験主義への流れ
- オッカムの唯名論が経験重視の思考を刺激。
- 後のフランシス・ベーコン(1561〜1626)が「知は力なり」を掲げ、経験的観察を基礎にした帰納法を体系化。
(2) 合理主義の萌芽
- 一方で、デカルト(1596〜1650)が「我思う、ゆえに我あり」を提唱し、理性を基礎とする合理主義を展開。
- デカルトの合理主義は、トマス・アクィナス以来の論理的推論を近代的に継承した側面もあります。
(3) 自然科学と哲学の分離
- スコラ哲学では神学・哲学・自然学が一体化していたが、近代以降は自然科学が独立。
- これにより学問の分化が進み、専門的な科学研究が可能になりました。
4-3. 宗教改革とスコラ哲学の終焉
(1) 教会権威の崩壊
- ルターの『95か条の論題』(1517年)を契機に、カトリック教会の権威は大きく揺らぎました。
- スコラ哲学が依拠していた神学的前提そのものが疑問視されるようになります。
(2) プロテスタント神学の台頭
- 信仰義認説など、神との直接的な関係を重視する神学が広まり、スコラ哲学の体系は時代にそぐわなくなりました。
4-4. スコラ哲学の歴史的意義
- 神学と理性の統合を試みた最初の体系的思想
- アリストテレス哲学の受容を通じて論理的思考法を確立
- 近代科学・近代哲学の出発点を準備
- スコラ哲学は衰退した後も、その論理的思考法は科学革命・合理主義・経験主義の基盤として息づきました。
4-5. 入試で狙われるポイント
- オッカムの唯名論と「オッカムの剃刀」
- 宗教改革とスコラ哲学の関係
- 科学革命と実証主義的思考の台頭
- ベーコンの経験論とデカルトの合理主義
- スコラ哲学が近代思想の基盤となった点
- スコラ哲学が近代思想や科学革命に与えた影響について説明せよ。
-
スコラ哲学は神学と理性の統合を目指し、論理的思考法を発展させた。トマス・アクィナスはアリストテレス哲学を受容し、『神学大全』で神学を体系化したが、後期にはオッカムの唯名論が登場し、経験重視の傾向が強まった。この経験主義的立場は、ベーコンの帰納法や実験科学の発展に影響を与えた。また、デカルトの合理主義もスコラ哲学の論理的推論を継承した一面を持つ。スコラ哲学は衰退したものの、その論理的手法は近代思想や科学革命の基盤を形作った点で大きな意義を持つ。
第4章:中世思想とスコラ哲学 一問一答&正誤問題15問 問題演習
一問一答(10題)
問1
オッカムが提唱した思想で、普遍概念の実在を否定する立場を何というか。
解答:唯名論
問2
「オッカムの剃刀」とはどのような原則か。
解答:仮定は必要最小限にすべきという原則
問3
「我思う、ゆえに我あり」と唱えた哲学者は誰か。
解答:デカルト
問4
デカルトが重視した方法論は何か。
解答:演繹法
問5
「知は力なり」という言葉で知られる近代思想家は誰か。
解答:フランシス・ベーコン
問6
ベーコンが重視した科学的方法は何か。
解答:経験に基づく帰納法
問7
ルターによる宗教改革は何年に始まったか。
解答:1517年
問8
宗教改革はスコラ哲学にどのような影響を与えたか。
解答:カトリック神学の権威を低下させ、衰退を促した
問9
スコラ哲学の衰退を加速させた16〜17世紀の科学的変革を何というか。
解答:科学革命
問10
オッカムの唯名論が近代科学に与えた影響は何か。
解答:経験重視の科学的思考を促した
正誤問題(5題)
問11
宗教改革はスコラ哲学の権威を低下させた。
解答:正
問12
ベーコンは合理主義哲学の代表的思想家である。
解答:誤(→ 経験主義哲学の代表)
問13
デカルトは帰納法を重視した。
解答:誤(→ 演繹法を重視)
問14
科学革命はスコラ哲学の論理的手法を完全に否定した。
解答:誤(→ 論理的推論は継承された)
問15
オッカムの唯名論は近代科学的思考の萌芽を作った。
解答:正
第5章 まとめ:スコラ哲学攻略の最終チェックポイント
ここまで、中世ヨーロッパの思想史とスコラ哲学の展開を4章にわたって整理してきました。
この記事の要点をおさえることで、大学受験世界史で頻出する
- 一問一答
- 正誤問題
- 論述問題
に対応できるようになります。
最後に、超重要ポイントを総整理し、過去問対策につなげましょう。
5-1. スコラ哲学の全体像を俯瞰する
時期 | 主な思想家 | 思想の特徴 | 著作 | 歴史的意義 |
---|---|---|---|---|
初期(11〜12世紀) | アベラール | 理性で信仰を検証 | 『是と否』 | 信仰と理性の調和を模索 |
盛期(13世紀) | トマス・アクィナス | 信仰と理性の統合・体系化 | 『神学大全』 | スコラ哲学の完成 |
後期(14世紀) | オッカム | 唯名論・経験重視 | 『箇条書論』など | 近代科学的思考の萌芽 |
5-2. スコラ哲学発展の背景
- イスラーム世界の役割
アヴィケンナやアヴェロエスを通じてアリストテレス哲学が逆輸入。 - 大学制度の成立
パリ大学・ボローニャ大学・オックスフォード大学が神学・哲学研究の中心地に。 - クエスティオとディスプタティオ
大学での討論形式の授業が、論理的思考を洗練させた。
5-3. スコラ哲学衰退の要因
- 哲学的要因:オッカムの唯名論による普遍概念の否定
- 宗教的要因:宗教改革によるカトリック権威の低下
- 科学的要因:科学革命と実証主義の台頭
5-4. 受験で差がつく重要ポイント一覧
出題テーマ | 頻度 | ポイント |
---|---|---|
トマス・アクィナス『神学大全』 | ★★★★☆ | 神の存在を「五つの方法」で論証 |
アベラール『是と否』 | ★★★☆☆ | 信仰と理性の調和の初期的試み |
オッカムの唯名論 | ★★★★☆ | 普遍概念否定・経験主義・オッカムの剃刀 |
アリストテレス哲学の再発見 | ★★★★☆ | イスラーム世界経由で逆輸入 |
大学制度の成立 | ★★★☆☆ | パリ大学=神学、ボローニャ大学=法学 |
宗教改革とスコラ哲学 | ★★★☆☆ | 教会権威低下と体系崩壊 |
5-5. 過去問対策と論述のヒント
過去問の出題例
- トマス・アクィナスとオッカムの思想を比較せよ。(早稲田・法学部)
- アリストテレス哲学がスコラ哲学に与えた影響について説明せよ。(慶應・文学部)
- 大学制度の成立がスコラ哲学の発展に果たした役割を述べよ。(一橋大学)
論述問題の攻略法
- 思想家を時系列で整理する
- 思想のキーワードを正確に使う
- 背景史との関連付けを意識する
- イスラーム世界・大学制度・宗教改革をつなげる
5-6. 関連記事へのリンクでさらに理解を深めよう
・「イスラーム世界の哲学とアリストテレス受容」
・「宗教改革と近代思想への転換」
→ ルターからデカルト・ベーコンまでの思想史をまとめ
・「世界史頻出!大学制度と学問の発展」
5-7. この記事の使い方
- 暗記チェック用 → 一問一答・正誤問題を繰り返し復習
- 論述対策用 → 論述問題と解答例を参考に骨子を自分で作る
- 体系整理用 → 表と重要項目をまとめて覚える
スコラ哲学は「信仰と理性の統合」を追求し、
- アベラールがその扉を開き
- トマス・アクィナスが体系化し
- オッカムが近代思想へつなげた
という流れをおさえれば得点源になります。
さらに、イスラーム世界や大学制度、宗教改革などの背景史も押さえることで、論述問題や正誤問題で他の受験生と差をつけることができます。
中世思想とスコラ哲学 総合問題演習50本勝負!
一問一答(15題)
問1
スコラ哲学の中心的テーマは何か。
解答:信仰と理性の調和
問2
『是と否』を著したスコラ哲学者は誰か。
解答:アベラール
問3
『神学大全』を著し、スコラ哲学を完成させた思想家は誰か。
解答:トマス・アクィナス
問4
トマス・アクィナスが神の存在を証明するために提示した論証方法を何と呼ぶか。
解答:五つの方法
問5
「オッカムの剃刀」という原則を提唱した思想家は誰か。
解答:ウィリアム・オッカム
問6
オッカムが提唱した、普遍概念を否定する思想を何というか。
解答:唯名論
問7
アリストテレス哲学をイスラーム世界からヨーロッパへ伝えた人物の一人で、「アリストテレス注釈者」と呼ばれたのは誰か。
解答:アヴェロエス(イブン・ルシュド)
問8
アヴィケンナが著した代表的な医学書の名前は何か。
解答:『医学典範』
問9
スコラ哲学の発展に大きな影響を与えたヨーロッパの高等教育機関は何か。
解答:大学
問10
神学研究で有名な中世ヨーロッパの大学を1つ挙げよ。
解答:パリ大学
問11
法学研究で知られる中世の大学はどこか。
解答:ボローニャ大学
問12
大学の講義形式で行われた問題提起の方法をラテン語で何と呼ぶか。
解答:クエスティオ
問13
大学での論争形式の授業をラテン語で何と呼ぶか。
解答:ディスプタティオ
問14
「我思う、ゆえに我あり」を唱えた近代哲学者は誰か。
解答:デカルト
問15
「知は力なり」という言葉で知られる近代思想家は誰か。
解答:フランシス・ベーコン
正誤問題(5題)
問16
『神学大全』を著したのはアベラールである。
解答:誤(→ トマス・アクィナス)
問17
オッカムの剃刀とは「仮定はできるだけ少なく」という原則である。
解答:正
問18
パリ大学は法学で有名である。
解答:誤(→ 神学で有名)
問19
アヴィケンナは『医学典範』を著したイスラーム世界の哲学者である。
解答:正
問20
アヴェロエスは「アリストテレス注釈者」と呼ばれた。
解答:正
一問一答(10題)
問21
アベラールの著書『是と否』では、どのような方法で信仰を論理的に検証したか。
解答:相反する聖書解釈を比較する方法
問22
トマス・アクィナスが信仰と理性を統合する際に積極的に取り入れた古代ギリシアの哲学者は誰か。
解答:アリストテレス
問23
アヴェロエスがアリストテレス哲学を伝える上で果たした役割を一言で説明せよ。
解答:アリストテレス注釈書を著し、ヨーロッパに伝えた
問24
唯名論の立場から普遍概念の実在を否定した思想家は誰か。
解答:ウィリアム・オッカム
問25
アリストテレス哲学をイスラーム世界から伝えた主要人物のうち、『医学典範』を著したのは誰か。
解答:アヴィケンナ
問26
中世ヨーロッパにおける大学講義の代表的な2つの方法を答えよ。
解答:クエスティオとディスプタティオ
問27
トマス・アクィナスの「五つの方法」の目的は何か。
解答:神の存在を論証すること
問28
スコラ哲学の衰退に大きな影響を与えた16世紀の宗教運動は何か。
解答:宗教改革
問29
スコラ哲学の衰退と近代科学の台頭を結びつける思想家を1人挙げよ。
解答:オッカム(経験主義的立場)
問30
デカルトがスコラ哲学の論理的思考をどのように継承したか、一言で説明せよ。
解答:演繹法を基盤とした合理主義哲学を展開した
正誤問題(15題・複数選択含む)
問31
アヴィケンナはアリストテレス哲学を注釈し、ヨーロッパに伝えた。
解答:誤(→ アヴェロエス)
問32
パリ大学は12世紀に設立され、神学研究の中心となった。
解答:正
問33
アベラールは「信じるために理解する」という立場をとった。
解答:正
問34
ボローニャ大学は神学研究で有名である。
解答:誤(→ 法学で有名)
問35
オッカムの唯名論は近代科学的思考の萌芽を作った。
解答:正
問36
「クエスティオ」は大学で行われた討論形式の授業を指す。
解答:誤(→ 問題提起形式の授業)
問37
ディスプタティオとは論理的討論を行う大学講義の方法である。
解答:正
問38
アヴィケンナの著作『医学典範』はイスラーム世界だけでなく中世ヨーロッパでも広く読まれた。
解答:正
問39
スコラ哲学の中心課題は「理性による神の否定」であった。
解答:誤(→ 信仰と理性の調和)
問40
アヴェロエスはイスラーム世界の科学者で、天文学においてコペルニクス理論を提唱した。
解答:誤(→ コペルニクスは16世紀ヨーロッパ)
問41
【複数選択】スコラ哲学の発展に影響を与えた要因として正しいものをすべて選べ。
a. イスラーム世界との知識交流
b. 大学制度の成立
c. ルネサンスによる古典復興
d. 宗教改革によるカトリック権威の低下
解答:a, b
問42
【複数選択】スコラ哲学衰退の要因として正しいものをすべて選べ。
a. オッカムの唯名論
b. 宗教改革
c. 科学革命
d. 大学制度の成立
解答:a, b, c
問43
【複数選択】アリストテレス哲学をヨーロッパに伝えたイスラーム哲学者をすべて選べ。
a. アヴィケンナ
b. アヴェロエス
c. ガリレオ
d. デカルト
解答:a, b
問44
【複数選択】トマス・アクィナスに関する正しい記述をすべて選べ。
a. 『神学大全』を著した
b. 五つの方法で神の存在を証明
c. 唯名論を提唱した
d. スコラ哲学を完成させた
解答:a, b, d
問45
【複数選択】中世ヨーロッパの大学について正しい記述をすべて選べ。
a. パリ大学は神学で有名
b. ボローニャ大学は法学で有名
c. オックスフォード大学は13世紀以降に成立
d. クエスティオは討論形式の授業を指す
解答:a, b, c
一行問題(5題)
問46
「オッカムの剃刀」とはどのような原則か、20字以内で説明せよ。
解答:仮定は必要最小限にすべきという原則
問47
アヴェロエスのアリストテレス哲学における役割を一言で述べよ。
解答:アリストテレス注釈者として哲学を伝えた
問48
トマス・アクィナスが信仰と理性を統合した著作を挙げよ。
解答:『神学大全』
問49
スコラ哲学衰退に影響を与えた16世紀の運動を挙げよ。
解答:宗教改革
問50
オッカムの唯名論が近代科学に与えた影響を一言で説明せよ。
解答:経験重視の科学的思考を促した
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